世界で「ワクチン外交」を進める中国。習近平政権の隠れた思惑
新型コロナウイルスの感染拡大が先進諸国で猛威を振るうなか、中国の王毅外相は1月15日、ブルネイとミャンマー、インドネシアとフィリピンの4か国を歴訪し、中国国営製薬会社シノファームのワクチンを無償支援することなどを約束した。
1月16日にはセルビアの首都ベオグラードに、シノファームのワクチン100万回分が到着。同国のアレクサンダル・ヴチッチ大統領は、中国からの要人がいないにもかかわらず、空港でワクチンを出迎えた。また、アフリカのセーシェルでも1月中旬から接種が開始された。
中国が「ワクチン外交」を進める理由
2021年1月時点、確認されているだけで、インドネシア、シンガポール、カンボジアなど十数か国が中国製ワクチンの承認、確保、接種開始などを行っている。
これは「ワクチン外交」とも呼ばれているが、中国が“健康シルクロード”を強化する背景には、感染拡大によって各国で高まる対中不信を和らげ、自らの影響力を維持・拡大させたい狙いがある。
習近平国家主席は2020年3月、イタリアのジュゼッペ・コンテ首相と電話会談した際、「中国はイタリアと共に感染症との戦いにおける国際協力、“健康シルクロード”の建設のために協力する」との意思を表明した。
中国が狙う“健康シルクロード”とは?
マスク外交やワクチン外交を活発化せることで対外的な影響力を維持・拡大させるため、健康シルクロードを定着化させる戦略を取ってきた。中国が進めるシルクロード構想(一帯一路)は、中央アジアを経由する陸路「シルクロード経済ベルト」、インド洋を経由する海路「21世紀海上シルクロード」が基本である。
2018年1月、習政権は北極開拓についての戦略を掲げた「北極白書」を発表し、ロシア側の北極海沿岸を通ってアジアと欧州を結ぶ第3の一帯一路とも言われる「氷上のシルクロード」構想を打ち出している。
北極海航路は、パナマ運河やスエズ運河を通過する航路に比べて大幅なショートカットになり、また、世界で採取されていない石油の13%、天然ガスの30%が眠っているとされ、エネルギー資源がほしい中国としては譲れない権益である。