最低賃金上昇と日本経済【やさしいニュースワード解説】
在京の大手メディアで取材記者歴30年、海外駐在経験もあるジャーナリストが時事ニュースをやさしく解説します。今回は、「最低賃金上昇と日本経済」です。
最低賃金を支払わないと罰則も
アルバイトの時給金額などに関係する最低賃金が10月に改訂され上昇しました。最低賃金制度とは、最低賃金法に基づき国が賃金の最低限度を定めているもので、会社や事業者など労働者を雇う側(使用者)は、最低賃金額以上の賃金を支払わなければならないとする制度です。
最低賃金額より低い金額で契約した労働契約は無効となり、使用者が最低賃金以上の賃金を支払っていない場合は、使用者がその差額を支払う必要があるほか罰則も適用されます。
対象となる使用者は商店や大企業など事業の規模を問わず、また労働者はパートやアルバイト、外国人労働者などを含むすべての働き手に適用されます。
最低賃金の全国平均が1,055円に
最低賃金は都道府県ごとに設置されている最低賃金審議会による審議を経て例年10月に改訂されます。最低賃金は、都道府県ごとに定められている「地域別最低賃金」と特定の産業ごとに決められている「特定最低賃金」の2種類がありますが、ニュースなどで報じられて一般になじみがあるのが「地域別最低賃金」です。2024年10月以降、全国平均で51円引き上げられ1,055円(時間額)になりました。引き上げ額は過去最大を記録しました。
都道府県別で最も金額が高かったのが東京都の1,163円で、逆に最も低かったのは秋田県の951円でした。引き上げ率が最も高かったのは徳島県の9.4%(84円)で、全国平均の5.1%を大きく上回りました。改訂後の最低賃金は、16都道府県で1,000円を超えました。
「全国平均1,500円」という目標の影響
最低賃金をめぐって石破首相は「2020年代に全国平均1,500円」という目標を掲げています。働く人たちにとって賃上げは歓迎すべき動きですが、石破首相の目標を達成するには年平均で7%以上の上昇が必要となります。企業には人件費の増加が負担となり、特に経営体力が弱い中小企業にはその影響が大きくなる懸念もあります。
経済界の中ではさまざまな反応がありますが、大企業で構成される経団連や中小企業が中心の日本商工会議所は慎重な見方を示しています。特に中小企業では人件費の支払いがかさんだ場合、必要な設備投資や人材の採用・育成をためらう動きにもつながりかねず、地域経済への影響も出かねません。
賃金引き上げ実現のために必要なこと
一方、日本の最低賃金の水準は上昇基調にあるものの、国際的な比較でみると主要国の中ではまだまだ低い水準にとどまっています。近年人手不足が指摘され、海外から働き手を確保する動きが多くの業種で広がる中、一定以上の給与水準を示せないと人材を獲得できない状況に陥るおそれもあります。
賃金を上げるためには企業の前向きな姿勢が問われますが、生産性の向上や適切な価格転嫁などは社会全体で進めていく必要があります。経済界の努力のみならず政府や地方自治体による規制緩和の推進など環境整備も必要となるでしょう。物価の上昇に見合う賃金の引き上げを実現していくには各方面の総合的な力の結集が求められます。