ウタ“生歌唱ではなく録音”報道が示した、令和における『紅白歌合戦』の存在意義
収録だった出場者はウタ以外にも…
ウタに限らず、King GnuやOfficial髭男dismなどのバンドも別スタジオでの収録映像でした。こちらも収録となると、そこで鳴っていた音だけのパフォーマンスだったかどうかの判断はつきにくい。実際その場にあった楽器や機材以上に豪華なサウンドで、商品として流通している音源に近いようにも聞こえました。
Adoはもちろん、King Gnuとヒゲダンも彼ら自身に問題はありません。しかしながら、こうした演出をせざるを得ない状況で、そもそも“生放送の音楽番組”だと謳わなければならないのかについては考える必要がありそうです。
そこで2014年のアメリカンフットボール、スーパーボウルのハーフタイムショーを振り返りたいと思います。
人気ライブバンドも事前収録を決めた
メインアクトのブルーノ・マーズと共演したレッド・ホット・チリ・ペッパーズが楽器をアンプにつないでいないことをネット上で指摘され、ベーシストのフリーが生のパフォーマンスはボーカルのみで演奏は事前録音だったと明かしたことがあったのです。その理由はハーフタイムショーというステージの特別な事情でした。
<ステージの設置に数分間しかないこと、さらになんかヘマなことに繋がる原因が1兆個くらいあってそのせいでスタジアムに居合わせている観客やテレビの視聴者が観てる演奏の音を台無しにすることを考えれば、俺はこれについてのNFLの立場はよくわかるよ>(『rockin’on.com』2014年2月5日 筆者注・原文は「台無しなる」)
ライブバンドとしてのプライドとの間で苦悩しながらもオファーを受けた背景には、スーパーボウルのハーフタイムショーがアーティスト達にとって何としてでも出たいビッグイベントだという事情があります。
実際、ステージの設営などの経費以外はノーギャラ。にもかかわらず、それ以上の広告効果が見込めるから出演を希望するビッグネームが後をたたない。いわば世界最大のショーケースなのです。