会社に内緒で独立計画を進めるも、信じていた後輩がまさかの裏切りを…
信じていた仲間に裏切られる……。これほど辛いことはないでしょう。
今回話を聞いたのはこの春、長年勤めた出版社から独立し、自らが代表を務める編集プロダクションを立ち上げた田中泰平さん(仮名・39歳)。
もともと出版業界に興味があった田中さんは新卒で入ったエンタメ系の出版社で、ヒット作をつぎつぎと連発します。
そして編集長として売り上げが傾きつつあった雑誌を立て直し、社内で押しも押されぬエースの座を確立。若くして編集部のうちのひとつを任される存在となります。
昔のやり方に固執するワンマン社長に疑問を感じ
「方向性をめぐって社長と意見が合わなくなったんです」
創業者でもあり、かつてはベストセラーをバンバン手掛けたというその社長は、昔気質の編集者で、中小の出版社にありがちなワンマンタイプでした。かつての剛腕も年齢を重ねるごとに柔軟さを失っていった印象を受けたそうです。
「このご時世にもかかわらず、紙の出版物に異常にこだわり、いまだに電子書籍での配信を良しとしないんです。電車で文庫本を読んでいる人ってほとんど見かけないですよね。正直、世間とのズレを感じました」
書店の減少に歯止めがかからない現在、従来の流通に頼ったままでは生き残れません。
「定額読み放題サービスやオーディオブックなど、多様化するコンテンツの売り方を積極的に活用する他社の編集者の姿を見て、徐々に不満が溜まっていきました」
経営に口を挟む社長夫人にうんざり…。独立を決意
編集者がSNSを通じて読者にアプローチするのが常識になりつつあるなか、WEB展開すら遅れていて、自社サイトはスマホに対応しておらず、新刊の表紙が並ぶだけの旧態依然な作り。同業他社とのギャップにフラストレーションを溜めていったという田中さん。
「自分が出した企画の2番煎じのようなタイトルが、売り方ひとつでスマッシュヒットを記録しているのを指をくわえてみている状況でした」
次第に溝は埋められないほど深くなり、社内で浮いた存在となってしまいます。
「もうひとつ不満だったのは、社長の奥さんが経営方針に関して口を挟んできたことです。出版に関して素人のはずなのに、イエスマンで固められた役員は従うばかりで、強い違和感を感じました」
居心地の悪さに限界を感じた田中さんは、一足先に退社してフリーで活躍していた先輩にアドバイスを仰ぎ、独立を決意します。
独立するにあたって、自らが率いていた編集部のメンバー5名に声を掛けると、全員が快諾し、共同出資して新たに会社を立ち上げるという話は内々に、かつ順調に進んでいきました。