中国共産党は外交で失策しても倒れない?国際政治を知るための「入門書」
年表形式のサマリー等で流れを把握しやすい
アメリカに注目する理由は「成長した中国が諸々の問題を作り出したことは事実だが、米中関係を一新させるようにまず動いたのはアメリカだからだ」(※5)と明快です。
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※5「まず動いたのはアメリカだからだ」=チャイナ側は「闘いません、勝つまでは」という長期戦略でアメリカと対峙していこうという時間を味方につけた戦略ですので、「状況を早急に打破しなければならない」という動機はアメリカ側にあります。だからアメリカが先に動くのは自然なことです。さて台湾(両岸問題)は……というと北京側が先手で侵攻したいとする動機を語る論が日本でも多いですが、実は構造動機論からいえばアメリカ側のほうが時間的には早く台湾を抑えておかないとヤバい、ということがあるわけです。あくまでも長期的な構造問題として。
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各章扉の裏ページに、その章に関連する動きが年表形式でコンパクトにまとめられていて、流れの把握を助けてくれるでしょう。「おわりに」の「バイデンと習近平、そして日本の立ち位置」では、米中対立時代にあって、日本はどうすべきか、佐橋先生の意見も示されています。繰り返しになりますが、内政が最大重視されるチャイナにとっては、本質的には外交は中共の体制維持にそれほど重要ではありません。
外交の失策で中共が倒れる、といったような、日本の感情保守が期待を込めた論が現実化することはなかなか想定しにくいことです。
【4】中国外交の最新トレンドを企業の視点で分析
〈国際政治〉の最後の1冊は、國分俊史『経営戦略と経済安保リスク』です。「経済安全保障」という新しく、また、コロナ禍、米中対立などの世界情勢のなかで注目が高い最近のトレンドが盛り込まれているのも、この本を取り上げた理由のひとつです。この本の特徴はズバリ「企業の視点」にあります。
先に紹介した3冊が、〈国際政治〉をあくまでも国と国の関係でとらえているのに対し、國分先生は昨今の米中を中心にした国際情勢の変化のなかで、国際政治に翻弄される&対応する企業から見た国際関係としてとらえています。自分の視点は企業側、国際政治は外部変数・外部環境というポジショニングが明快な一冊です。
「企業から見た国際関係」を網羅的にまとめた本はありそうでいて、そうそうない視点です。そこに示された経営戦略の考え方も非常に独特の切り口です。マクロの国際政治の問題が、超ミクロの個人的な進路や就職にどう関係してくるのだろうかと考えるとき、アメリカ政治や米中関係が一番外側にある大きなファクターであると認識している人は多いかと思います。