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セラピーを超える「条件反射制御法」

 私は長年、なぜセラピーに効果があるのか、わからずにセラピーをしてきました。たとえばゲシュタルト・セラピーはもとより、多くのセラピーがフロイトの精神療法を源流にしていて、カタルシス理論(催眠などで、自分でも気づかないような抑圧された感情や記憶を意識化し、言葉で表現すると、感情が解放され症状が消えるという実践理論)を重視します。

 カタルシスとは、感情を意識化する際に起きる強い「反応」と、その後の改善された精神状態で特徴付けられるもので、「心の浄化作用」と呼ばれるものです。セラピーで頻繁に行われます。

 しかし、感情を意識化し、強い反応が出ると、「浄化」される理由、つまり、精神状態が良くなる理由が、私には分かりませんでした。「抑圧された感情を吐き出せば癒される」「自分を受け入れれば受け入れるほど変わる」などの言辞には根拠が示されておらず、理解不能でした。

 しかし、「条件反射制御法」を知って、その理由が理解できました。緊張し、周囲を警戒する行動が生じる人の典型は、過去にツラい出来事があった人です。そのツラい体験にどうにか対応しきったことは、死ぬかも知れない危機を生き延びたということです。だから、ツラい出来事の後に通常の状態に戻ったときには「生理的報酬」が生じるのです。

 セラピーでツラかった出来事を思い出すと、「刺激」を、日常生活からツラかった出来事に向かって時間的に順序よく入れていくので、「反応」が生じ、脳の中は当時の出来事でいっぱいになります。映像も見えて、音声も聞こえ、定着していた不安、緊張、周囲への警戒が生じることがあります。連想の中でのことだとわかっているけれど、強く興奮します。これがカタルシスの特徴です。

精神状態は安定するほうに向かう

診断 メンタル

 このときにもうひとつ重要なことが生じます。強い「反応」が「生理的報酬」を伴わずに、生じたのです。ツラい出来事は実際には起こっていないことを把握している「第二信号系」と、「生理的報酬」の有無に左右される「第一信号系」との間の神経活動のやりとりにより、「防御」の成功はなく、「生理的報酬」は生じない現象となるようです。

 従って、日常の生活からの神経活動、ツラかった出来事から神経活動は低減します。つまり、カタルシスの後にはツラかった出来事に関する「反応」は生じなくなり、精神状態は安定するほうに向かうのです。一度のカタルシスでも、十分な効果が生じて、その後の行動が楽になることも少なくありません。

「条件反射制御法」は各種のセラピーの効果をヒトの行動原理に照らし合わせて、整理、説明することを可能にすると思います。セラピストがセラピーで脳内に起きることを理解できれば、決定的な革新がセラピーの世界にもたらされると考えます。

 そして、「条件反射制御法」の技法を使い、罪を犯してしまうほどではないけれど、日常を困らせる「ハマり」は自分で治すことができる、という朗報をお伝えできるのは私の喜びです。

<TEXT/小早川明子>

カウンセラー。NPO法人「ヒューマニティ」理事長。1959年、愛知県生まれ。中央大学文学部卒業。1999年、会社経営時にストーカー被害に遭ったことを契機に、ストーカー問題、DVなど、あらゆるハラスメントに対処する活動を開始。著書に『やめたいのにやめられない 悪い習慣をやめる技術』(フォレスト出版)など

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