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東大合格者数No.1、開成高校の「非合理的な伝統」の本質

学び

なぜ子供は親の正しい教えを守らないのか

 たとえば、みなさんが子どもの頃を思い浮かべてみてください。親御さんに「勉強しなさい」「宿題やりなさい」と言われたことがあるのではないでしょうか。

 みなさんが幼少期から既に勉強以外で生計を立てられるような特殊技能に目覚めていない限り、つまりたいていの場合において、この親御さんの発言は間違ったものではありません。しかし、この言葉を言われて「うん、わかった。私頑張る!」と決意を固められる子どもは世の中にどれほどいるでしょうか。みなさんに問うまでもなく、こんな子どもはほとんど存在しないわけです。

 人間が意思決定を行う際の判断基準は、多くの場合感情です。なにかを意思決定し、行動を起こす際には必ず「コスト」が発生します。コストとはお金に限らず、労力や犠牲、精神的負担などあらゆるものを含みますが、なにかを決める際にはこのようなコストが必ず発生します。

 そしてよくある勘違いとして、このコストを支払ったとしても、それを十分補って余りあるメリット(これもお金に限らないあらゆる利益が想定できます)があれば(つまりメリット>デメリットならば)、人間は意思決定を行うという思い込みです。そしてなぜこれが勘違いなのかと言えば、人それぞれ価値観が異なるからです。

現実世界ではさまざまな価値観が存在する

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 たとえば30分行列に並べば無料で焼肉が食べられるとしましょう。そんなお店があれば、ぜひ並んでみたいものです。しかし、大変お金持ちの方や芸能人の方のように、30分並ぶことに対して通常よりもコストを感じる人がいます。

 では、30分並んで1000円払って食べ放題だったらどうでしょう? さらにそのお店が駅から15分歩くとしたら? このように条件を具体化していくと、さまざまな価値観がある以上そのお店に行きたいと感じるか否かは、まったくもって一概に決めることができないという結論にたどり着きます。

 私が弁論部で取り組んでいたディベートでは、勝ち負けを決めなければならない以上、価値観がブレにくい表現を用いることが推奨されていました。ロジックの基本で扱ったように、「楽しい」「うれしい」「悲しい」といった主観的表現で論理を展開しても、その価値認識は人によって異なります。そこを1億円、10億円と表現すれば、さらにその数字を言い換える(たとえば、1億円でこんなことができます、など)ことができれば、価値観のブレが生じにくいわけです。

 競技として勝ち負けを判断する審判にとっては、このような表現の方が自身の主観を排除できるので、大変ありがたいことでしょう。しかし現実世界においては、その数値的な表現でさえ人によって大きい・小さいという感じ方の相違があるわけです。

<TEXT/小林尚(CASTDICE TV)>

株式会社キャストダイス 代表取締役 YouTuber。1989年生まれ。埼玉県出身。高校受験で私立開成高校に入学し、弁論部キャプテンとして活動。現役で東京大学文科Ⅰ類に入学。卒業後、経営コンサルティング会社の戦略部門を経て、株式会社キャストダイスを設立。得意領域は教育×コンサルティング。著書に『開成流ロジカル勉強法』(クロスメディア・パブリッシング)

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