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2020年、37万人が不足の衝撃。IT業界に人が集まらない深刻な事情

ビジネス

下請け ピラミッド

 IT業界における多重請負構造の問題を挙げるとすると、以下の3点が特に問題だと考えられます。

1.再委託の度に中間マージンを引かれてしまう
 フリーマーケット型アプリのCMにもありましたが、再委託はそれが行われる度に中間マージンが発生します。当然、商流の下位に属する企業や人材への対価は圧迫されるわけですが、IT業界は長らくこの事業構造を良しとしてきました。

2.不慣れな人材がマネージメントを行う
 再委託を行う際に発注側に専門家や経験者がいれば良いのですが、対象業務に精通していない場合にはマネージメントに無駄や間違いが生じやすく、業務にあたるエンジニアはクライアントニーズを掴みづらい状況が生まれています。

 また、再委託にあたり孫請け企業は業務コントロール権を奪われているばかりか、課題解決の判断や実施も制約されるケースが少なくありません。それによって進捗コントロールが難しく、リスク回避の行動も制約されることに繋がっています。

3.業務経験、スキルの連続性が欠如する
 一度でも多重請負構造に組み込まれてしまったら、その後の商流が変わることはありません。たとえ自社にとって不利益でも「前回もこの業務内容だったから」と甘んじて引き受けます。

 構造悪に耐えかねて中抜きを図った企業がその後の取引に加われなくなることが、この業界では珍しくありません。日本の商習慣には「業界ルールを崩さない」という暗黙のルールがあるのです。

 そのため自社人材の貴重な業務経験や知見の積み上げを上流の企業に依存することになり、時間や経験を他社に捧げることになっています。

製造業界の人材を柱として成長した弊害

IT テクノロジー

 なぜこのような事業構造が脈々と受け継がれているのでしょうか。複雑な要因が絡んでいることは間違いありませんが、企業経営の側面から見てみると、必ずしもすぐ解決すべき課題ではなかったのかもしれません。

 商流が下位の企業は、上流企業に業務量を保証してもらうことが一般的です。安定した経営という観点から見れば、理にかなった構造です。

 しかしながら下請け構造は雇用関係ではないので、契約を打ち切ることは難しくありません。下流企業の人材が上流企業の雇用の調整弁を担っている側面は否定のできない事実です。

 また、コンピュータサイエンスを学んだ人材が少なくなっていることも看過しがたい点です。経済産業省の外郭団体である情報処理推進機構が国家資格の認定を行っていますが、IT業界に免許制の業務はありませんし、保有資格が業務受注に影響することも一般的にはありません。

 国家資格自体もIT知識の詰込みとその活用に留まり、本来あるべき世の中の課題に目を向けることや、既知の技術から新たなモノを生み出す人材を育成しようとしていのるかと言えば甚だ疑問です。

このように専門分野を持たず、マネージメント機会も奪われ、経験も連続しない状況がこの30年あまり繰り返されてきてしまったのです。

 IT業界は製造業界の人材を柱として成長してきてしまったという弊害もあります。あまりにも強すぎた国内製造業の競争力を背景にして、IT業界の牽引を製造業出身者に委ねてきたところがあります

 近年になってやっと工業製品の開発過程とソフトウェアのそれとは似て非なるものだという認識が定着してきましたが、製造業を母体とした人材の中には、これまでの成功体験に固執している状況もまま見受けられます。

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