bizSPA!

中国人が食事を残すワケは?直箸や魚の骨をテーブルに置くマナーからわかる価値観

学び
中国人が食事を残すワケは?直箸や魚の骨をテーブルに置くマナーからわかる価値観

大皿から直箸で料理を自分の皿に取り、準備された食事は残すのがマナーとされる中国の食事。その作法の背景を一つずつ紐解いていくと、中国人の人付き合いに対する考え方や価値観が垣間見えます。この記事では、意外と知らない中国特有のマナーの「なぜ?」についてご紹介します。

一緒に食事をすることには特別な意味がある

食事する中国人家族のイメージ
©️PIXTA

ビジネスやプライベートでは、しばしば「今度一緒に食事でもどうですか」「今度ぜひうちに遊びにいらしてください」と誘われることがあるでしょう。逆に、自分からこのようなフレーズを発することもあるかもしれません。

しかし、実際に食事をすることは少ないのではないでしょうか。日本では、いわゆる社交辞令として使われる場合もあります。

一方で、もし中国人に食事に誘われたり、自宅に招かれたりするようなことがあれば、おそらく社交辞令ではありません。友情や信頼関係を深めたいというサインだと受け取るべきです。

これは相手の「あなたともっと仲良くなりたい」「より親密な関係を築きたい」という気持ちの表れでもあります。中国人は、食べることを通じて仲間意識を高め、助け合いの精神を強めるのです。その価値観が食事の習慣に表れます。

たとえば、料理を取り分ける際に「取り箸」を使うという日本的な習慣は見られません。大皿に盛り付けられた料理を、直接自分の箸を使って取り皿に入れて食べます。

これは裏を返せば、信頼の証でもあります。取り箸を使おうものなら「あなたの箸は汚い」と相手に伝えるようなもの。つまり、「あなたを信頼している」という無言のメッセージが、この食事の作法に表れているといえます。

中国特有の食事マナーはメンツを潰さないため

回転テーブルのイメージ
©️PIXTA

中国人は人間関係において「メンツ(面子)」を非常に重視し、特に目上の人のメンツを潰すことを避けます。この考え方は、食事の順序にも反映されています。

例えば、料理を取る順番。円卓を囲んで食事を取る際は、目上の人が最初に料理を取って少しずつ台を回します。自分の番が来たら少量を取って、円卓を次の人に回すという流れが一般的です。

余談ではありますが、中華料理でお馴染みの回転式円卓は日本発祥といわれています。しかも、昭和初期に生まれた比較的新しい文化です。この円卓を最初に考案したのは、現在の「ホテル雅叙園東京」の前身である雅叙園の創業者でした。

宴席で気兼ねなく料理を取り分けられるようにと、回転式テーブルを設計したのが始まりといわれています。この回転式円卓は日本から中国に伝わり、現在では中国でも広く使われるようになりました。ちなみに、雅叙園の回転テーブルは現存する最古のものとして修復され、2025年の今でも使用されているそうです。

料理を残すことはホストや料理人への配慮

中国料理のイメージ
©️PIXTA

同席している目上の人だけでなく、料理を作ってくれた人のメンツを保つ習慣もあります。

例えば、魚や肉の骨、エビやカニの殻などの処理方法です。これらの殻や骨は、自分の取り皿に置くのではなく、テーブルの上に直接置くのが一般的です。テーブルやクロスが汚れるほど、「みんなで楽しく食事をした」ということを示す意味があるそうです。

実際、中国の昔ながらの飲食店では、テーブルにクロスが敷かれており、客が食事を終えるとクロスを交換します。

また、出された料理をすべて食べ切ってしまうと、「料理が足りなかった」というメッセージを伝えることになってしまいます。そのため、あえて少し料理を残し、「食べ切れないほど充分な量をご用意いただきました」と示すことが、料理人やホストのメンツを立てるための配慮とされています。

ところが、この中国の食事マナーにも変化が見られます。

2021年4月29日、極端な食べ残しや大食い動画のような必要以上の食物の浪費を取り締まる「反食品浪費法」が可決され、即日施行されました。

背景には、新型コロナウイルスの影響による食品流通の停滞や、各地で発生した水害、さらにはバッタの大量発生による農作物への被害など、食料の確保に対する懸念があったといわれています。

筆者自身も2021年当時、中国に滞在していましたが、この法律の影響を感じた場面がありました。当時の同僚の家族と一緒に飲茶を食べに行った際、レストランの店員からラストオーダーの確認をされたとき、「食べきれる分だけ注文してください。残すと罰金の対象になるかもしれません」と念を押されました。

食事のマナーや文化を紐解いていくと、単なる作法や習慣の違いにとどまらず、その国や地域で大切にされている価値観を垣間見ることができます。

この記事を書くにあたり、中国で働いていた頃の現地スタッフの方が「中国人と仕事をするなら、一緒にご飯を食べないとダメだよ」と言っていたことを思い出しました。

この言葉は、表面的なコミュニケーションや商談だけでは、物事がスムーズに進まないことを示すと同時に、中国人との信頼関係を築く上での重要なヒントが含まれている気がします。

[参考]
ホテルの歴史 – ホテル雅叙園東京
コロナ後に囲みたい「グランド中華」の円卓を発明したのは… : 読売新聞
中国で「食べ残し禁止法」成立、罰金17万円 大食い番組・動画も禁止でネット上では反発も:東京新聞デジタル
『世界のビジネスエリートが身につけている 教養としてのテーブルマナー』(小倉 朋子著/SBクリエイティブ株式会社)

奄美大島出身。大阪府在住のライター。 タイと中国の日本人学校に教員として通算8年間勤務。 帰国後、フリーのライターへ。 補習校講師として、オンラインで国語を教えています。

おすすめ記事