「今すぐ来て」能登地震で北陸事業者7割超が観光客減。2月の資金繰りに不安の声も【独自調査】
能登半島地震に被災された皆さまへ、心よりお見舞い申し上げます。被災地には、断水が復旧しない地域もあり、休業、避難生活を強いられる事業者・被災者がいまだ多数存在します。
そのため、石川・富山を中心とした北陸への観光に対して自粛ムードが生まれ、県外旅行客のキャンセルが相次いでいるとの報道も複数確認されます。
しかし、震源地に近い能登半島北部の輪島市と、石川の県庁所在地の金沢市は100キロ程度離れています。東京の中心部と山梨県甲府市、大阪の中心部と和歌山県白浜町、または四国の徳島県徳島市の距離と同程度です。
石川・富山のその他の地域はさらに距離が離れているため、地震の被害が軽微だった地域も多く、それらの地域では、震災後も変わらず営業している事業者がほとんどです。
そこで今回は、宿泊業、飲食店、娯楽業、旅行業などを石川・富山で営む事業者たちを対象に(休業中の事業者を除く)、旅行客の観光控えによって事業者たちがどのような状況に置かれているのか、実態把握のためのアンケート調査を〈bizSPA!フレッシュ〉および北陸のローカルメディア〈HOKUROKU〉協同で行いました。
bizSPA!フレッシュ、およびHOKUROKUで編集長を兼務する私(坂本と申します)も居住地の富山で被災しました。北陸の事業者の生の声を、事業者に近い場所から全国に届けたいと思います。
調査結果の概要:
▶回答を得た事業所の被災状況
・被害なし(48.9%)
・一部の損壊(51.1%)
▶震災後の客足の変化
・極めて影響が大きい(55.3%)
・影響が大きい(21.3%)
・さほど影響がない(17%)
・影響がない(6.4%)
▶県外、および県内からの利用客への来県について
・歓迎する(93.6%)
・どちらとも言えない(4.3%)
・やや歓迎できない(2.1%)
調査方法:
登半島地震から1カ月が経過した2月1~7日の期間、旅行雑誌〈るるぶ情報版〉(JTBパブリッシング)石川・富山県版に掲載された事業者のうち、休業中の事業者を除く、両県各市町村の計112カ所以上(※)の事業者に、アンケートフォームをランダムに送付。そのうち、47の事業所から得た回答を集計。
※「以上」とは、アンケートフォームの拡散協力を各所に依頼したため
休業中の事業者が多い復興地域は能登半島北~中部
最初に、能登半島地震の被害が極めて大きく、観光支援以上に復興活動が最優先される地域を紹介します。
旅行雑誌〈るるぶ情報版〉(JTBパブリッシング)に掲載された事業者にランダムに連絡する過程で、公式ホームページ、および各種SNS(会員制交流サイト)により事業の休業が確認された事業者は、調査対象期間において以下の地域に集中していました。
石川県
・輪島市(能登半島北部)
・珠洲市(能登半島北部)
・穴水町(能登半島北部)
・能登町(能登半島北部)
・志賀町(能登半島中部)
・七尾市(能登半島中部、能登島を含む)
これらの地域では、断水エリアもまだ多く、復興が最優先されています。
同エリアで飲食店を営む休業中の事業者からは、
「(観光客は)待望してません。水もでないですし建物も壊れています。観光さんよりも復旧してくださる事業者さまやボランティアをお願いしたいです」(能登半島北部・輪島市の休業中の事業者)
との意見を特別に頂きました。
ただ一方、同じ休業中の事業者でも、オンライン販売、能登半島以外の北陸各地にポップアップストアとして出店している事業者も存在します。
「現在、ギャラリー販売は当面営業停止とさせていただいております。ですが、オンラインでの注文、酒屋さんでのご購入は大歓迎でございます。復興に向けて少しずつですが能登半島も動いています。皆さまからの温かい応援と激励で前を向けています。本当にありがとうございます。また、元気になった能登半島に皆さまがいらっしゃるのを楽しみにしています」(能登半島北部・穴水町の事業者)
被災の程度が深刻な能登半島北~中部に個別具体的な支援先、ひいきのお店などがある場合は、オンラインでの注文、商品購入などの支援が効果的と考えられます。
加えて、南北約100キロ・東西30~50キロと日本海側最大の面積を持つ能登半島では中~南部において、物理的な被害がなかった事業者、事業を再開している事業者も確認されます。
「昨日(2月2日)も複数回の余震がありました。一部地域を除き影響が少なかった当地ではありますが『歓迎する』は安全の保証が伴う段階で発したいと思います」(能登半島中部・中能登町の事業者)
以上のような慎重な声もありつつ、
「来てもらいたいです」(能登半島中部・中能登町の事業者)
といった声も確認されました。同地域の休業状況については、各事業所の公式情報を最終的に個別にご確認ください。
富山県
・氷見市(能登半島南東部)
・射水市(富山県北西部)
の沿岸部(埋め立て地)にある観光スポットでも一部、液状化の影響を受け休業、駐車場の一部利用制限などが発表されています。しかし、同エリアのその他大部分の事業者は通常通りの営業が確認されています。
震災後の客足の変化「極めて影響が大きい」が半数以上
能登半島北~中部の被害は極めて大きく、休業中の事業者が多いと紹介しました。しかし、石川・富山両県のその他地域の事業者に聞くと、
・一部の損壊(51.1%)
・被害なし(48.9%)
と、被害が軽微で済んだ状況が確認されます。
「射水市は物理的な被害が少なく通常営業している店がほとんど」(富山県西部・射水市の事業者)
「富山県は大きな被害のなかった地域も多く、弊店などは物的・人的被害は一切ございませんでした」(富山県西部・射水市の事業者)
「現時点での地震の影響はほぼない」(石川県中部・金沢市の事業者)
「うちは、庭の灯籠(とうろう)が倒れたくらいで大丈夫です」(富山県中部・富山市の事業者)
今回の調査では、石川・富山両県を地域的に網羅する形で回答を得ています。
今回のアンケート回答者(休業中の事業者を除く)の中で「全壊」「半壊などの大規模被害」と答えた事業者はゼロでした。
能登半島北~中部を除いて北陸全体で言えば、最小限の被害で済んだ事業者が多いと分かります。
その上で、震災の影響がなかった、または軽微で済んだ事業者の客足にはどの程度の変化が生じているのか聞いてみました。
・極めて影響が大きい(55.3%)
・影響が大きい(21.3%)
・さほど影響がない(17%)
・影響がない(6.4%)
「極めて影響が大きい」「影響が大きい」を合計すると76.6%に達します。
「宿泊業や飲食業を中心にコロナの自粛期間と変わらない客足、それ以上の落ち込み方です」(石川県の能登半島中部・中能登町の事業者)
「12月は、コロナ前に戻る感じがありましたが1/1の震災から、予約客のキャンセルや新年会の自粛により、コロナ前より4割弱の売上減少となりました。同業者ではコロナ禍よりひどい状況の飲食店もあります」(富山県中部・富山市の事業者)
「約10分の1になりました。地元顧客も外出していない印象です。来店者、宿泊者が極端に減ってしまい、まちを歩いている人数も例年より少ない」(石川県中部・金沢市の事業者)
「山中温泉地区宿泊施設において1月4日時点で約8,000名の宿泊キャンセルが出ました(中略)2月は閑散期であるが、輪をかけてひどくなる予想です」(石川県西部・加賀市の事業者)
「県外からの観光客らしき方は月に3~4組は来店あるが、1月中はなかった」(富山県中部・富山市の事業者)
「宴会キャンセル、常連の客もあまり来ない」(富山県中部・富山市の事業者)
「『北陸は今大変そうだから行かないでおこう』といった大きなくくりで、弊店へのお越しを遠慮されるお客さまもいらっしゃるように感じております」(富山県西部・砺波市の事業者)
「県外からの観光客の方が減少し、富山の観光業の落ち込みが拡大しています」(富山県西部・射水市の事業者)
「お店(和菓子屋)が観光地にあるため、観光のお客さまはかなり減りました」(石川県西部・加賀市の事業者)
「来客状況はコロナより厳しいと思う、助けてください」(富山県西部・射水市の事業者)
「特に海外からのキャンセルがほとんどです」(富山県西部・射水市の事業者)
「1月は県外国外からの予約は90%キャンセル」(富山県中部・富山市の事業者)
など、石川・富山両県の各地から厳しい現状に対する声がありました。
もちろん、一部の事業者においては、復興支援に従事する作業者たちの宿泊施設となり、影響をまぬかれたケースも確認されました。回復の兆しを口にする事業者の声もあります。
「民宿は復興支援の業者のためにほぼ貸し切りです」(富山県西部・氷見市の事業者)
「観光地は震災直後は観光客の方がゼロになったが、ほんの少しずつ戻ってきている。インバウンドもアジア圏からほんの少し回復傾向。ほんの少しです」(石川県中部・野々市市・金沢市の事業者)
「県外からの日本人観光客は少ないが、異国の方や、近県や近隣住民の利用が増えているようで、変わらず忙しくしている」(富山県西部・南砺市の事業者)
しかし、そのように答えた事業者はまだまだ少数派で、大多数の事業者が客足の変化に影響を受けていると分かります。
「建設業者はバブルだと言ってました。短期的には悲惨です(中略)より地域の魅力を発掘し発信できる最後の生き残りをかけた5年から10年に、わが地域である加賀市がどう尽力できるか大事な時期です。ですから、今、必要なもの、欲しているものは加賀市全体のランドスケープです」(石川県西部・加賀市の事業者)
といった声もありました。
事業者の9割超「観光客を歓迎」
そこで最後に、石川・富山両県で、宿泊業、飲食店、娯楽業、旅行業などを営む事業者の来県者に対する歓迎ムードを聞いてみました。
県外、および県内からの利用客への来県について、
・歓迎する(93.6%)
・どちらとも言えない(4.3%)
・やや歓迎できない(2.1%)
と「歓迎」の声が圧倒的な意見だと分かります。
「ご配慮は大変ありがたいことですが、こと弊店に限っては、遠慮なくご来店いただきたいと強く願っております」(富山県西部・砺波市の事業者)
「ぜひ、富山の海鮮を食べにきていただきたいです」(富山県西部・射水市の事業者)
「県外の方からすれば余震など不安はあるかもしれないが、こちらとしては大歓迎なのでぜひ来ていただきたいです」(石川県西部・加賀市の事業者)
「『遠慮なくきていただきたい』というメッセージを発信したい」(富山県西部・射水市の事業者)
「ぜひ来てほしい。歓迎したい」(石川県西部・加賀市の事業者)
また、今すぐに来県してほしいと切望する声も目立ちました。
「今すぐ来てほしい」(富山県西部・氷見市の事業者)
「今すぐ来てほしいです」(富山県西部・氷見市の事業者)
「今すぐに来てほしいです」(富山県西部・射水市の事業者)
「今すぐにでも来ていただきたいです」(富山県西部・高岡市の事業者)
「北陸割の影響で2月キャンセル連絡あり。北陸割を待たずに1日も早く観光客のみなさまに来ていただきたい! 宿泊業単独ではキャッシュフローがかなり厳しい状態です」(富山県中部・富山市の事業者)
震源地に近い能登半島の北~中部を除けば、石川・富山県内には被害が軽微なエリアも多く、変わらず事業を継続している事業者がほとんどのため、県内外からの客足の戻りを期待する声の大きさが分かります。
旅行代金が50%割引となる支援策〈北陸応援割〉が3月から始まります。しかし、そのアナウンスのタイミングが早かったため、震災直後のキャンセルに加えて、残っていた予約についても、割引を見込んだキャンセルが相次いだとの意見が複数の事業者から確認されました。
自粛などに苦しむ事業者の支援になればとの思いから、国の北陸応援割とは別に、富山県から、県独自の応援クーポンを2月中旬から配布するとの発表が2月6日(火)ありました。
北陸(能登半島北~中部を除く)では目下、3月以降の北陸応援割を利用した旅行者以上に、今すぐ来県してくれる旅行者が大いに期待されています。
調査の詳細
調査対象:石川・富山県内の計112カ所以上(※)の事業者(※「以上」とは、アンケートフォームの拡散協力を各所に依頼したため)
回答数:47の事業者
調査期間:2月1~7日
調査方法:旅行雑誌〈るるぶ情報版〉(JTBパブリッシング)石川・富山県版の最新号に掲載された事業者のうち、休業中の事業者を除く、両県各市町村の計112カ所以上(※)の事業者に、アンケートフォームをランダムに送付
事業者(回答者)の種類:飲食店(61.7%)宿泊業(17%)宿泊業・飲食店・娯楽業・旅行業など複数の事業(4.3%)旅行業などその他(17%)
事業所(回答者)の所在地:石川県(金沢市・野々市市・中能登町・能登町・加賀市・小松市・輪島市・穴水町・かほく市)、富山県(射水市・富山市・南砺市・氷見市・高岡市・黒部市・魚津市・砺波市)
[取材・文/坂本正敬 地図/カツオ]