トランプ再選をプーチン待望のわけ。ウクライナの支援停止で民主主義が負ける日
「選挙イヤー」の今年、来月の3月にはまた、大統領選挙がロシアで行われる。事実上、プーチン政権の+6年を承認するだけのイベントとの見方が一般的であり、ウクライナ侵攻における士気をロシアはさらに高めると専門家は予測する。
では、そのロシアの今後の動きに、米大統領選に向けた共和党候補者選びで1強状態のトランプが再選を果たした時、どのような影響を与えるのだろうか。
そこで今回は、国際政治に詳しい専門家の和田大樹さんに、トランプ再選の未来がもたらすロシアの今後を教えてもらった。
和田さんは、国際安全保障、国際テロリズム、経済安全保障などを専門家で、Strategic Intelligence代表取締役社長CEO、日本カウンターインテリジェンス協会理事、ノンマドファクトリー社外顧問、清和大学講師、岐阜女子大学南アジア研究センター特別研究員など数々の職務を兼任する。
和田さんによれば、トランプ再選によって、ウクライナへの軍事侵攻の既成事実化が進み、力による国境線の変更に、悪しき先例をつくってしまう恐れがあるという。
そうなれば日本も、決してひとごとではなくなる。ぜひ、最後まで読んでもらいたい(以下、和田大樹さんの寄稿)。
各国の指導者たちはトランプ再選の準備を進めている
11月の米大統領選に向け、トランプとバイデンの戦いが本格的に始まっている。
共和党候補者選びでは、トランプ最大のライバルと言われたフロリダ州知事のデサンティスが選挙戦から撤退し、ヘイリー元国連大使もいつまで戦うかという状況だ。要するに、トランプ1強である。
3月5日のスーパーチューズデー(米大統領選挙の候補者選びのヤマ場)を待たずに「トランプで(候補者は)決まり」という状況もあり得そうだ。
その状況を受けて、対トランプ闘争にバイデンも本腰を入れ始めた。秋の選挙は、民主主義と自由が懸かった選挙だとバイデンは支持者たちに訴えている。
一方、各国の指導者たちは、トランプ勝利のシナリオが現実味を帯びてくる中、トランプ再選への準備を着々と進めていると思われる。
例えば、中国の習主席は、厄介なシナリオが出てきたなと思っているだろう。しかし、プーチンはむしろ、肯定的に考えていると思われる。その理由は、ウクライナ戦争を停戦に持ち込む際に役立つ存在だからだ。
力による現状変更の実例を他の権威主義の国に示してしまう
バイデンは、ウクライナ戦争を、民主主義と権威主義の価値観を巡る戦いと位置付け、その対立軸に居るプーチンを敵と見ている。
しかし、バイデンと違いトランプは、戦争を早く終わらせるべきだと思っている。米国の国益にならないからだ。
トランプは、24時間以内にウクライナ戦争を終わらせる、最優先でウクライナへの支援を停止すると断言している。そこに、理念や道義などは存在しない。
プーチンを敵と認識していないなら、ロシアにとってトランプは、バイデンより交渉できる余地がある。トランプが勝利すれば、プーチンはトランプに接近を試み「ウクライナ戦争で停戦に応じるようウクライナを説得してほしい」と相談する可能性がある。
今月で、ウクライナ侵攻からちょうど2年となる。プーチンは今、停戦を狙っている。このプーチンの求めにトランプが応じる可能性も高い。
しかし、ウクライナが停戦に応じたとしても、この停戦は、終戦に向けた停戦を意味しない。ロシアに領土を占領されている状態でウクライナが停戦に応じれば、その勝者は結局のところロシアだ。
プーチンの最終目標は、ウクライナの属国化である。仮に、一度停戦になったとしてもいつか、間違いなく攻勢を拡大させる。
だが、トランプは、ウクライナに関心が薄い。その関心の薄さに乗じて、軍事侵攻という既成事実化が進んでいくだろう。
権威主義のロシアが、力による現状変更を実現した形になれば、中国のような他の権威主義の国にも悪しき実例を示してしまう。
もちろんすぐに「じゃあ、俺たちもやろう」にはならないもののその実例が、台湾の問題、尖閣の問題に影響を与える可能性はゼロではない。
今日、プーチンは、以上のような構想を基に、トランプ勝利を待ち望んでいると間違いなく考えられる。
[文・和田大樹]