車とはワケが違う飛行機売買の裏側。ドバイエアショーに学ぶ航空宇宙産業の最前線
自転車は、自転車屋やホームセンターなどで購入できる。バイクは、バイク屋で買える。自動車は、カーディーラーや中古車販売店で手に入る。では、飛行機はどこで、どのように売買されるのだろうか。
プライベートジェットを含め普通の人には、飛行機を買う機会など一生のうちに訪れない。しかし、航空会社であれば飛行機を買い続けなければいけない。自治体であれば、ヘリコプターが必要になるはずだ。
人は、その手の航空機をどこで、どのように買い付けているのだろうか。その売買には、独特の慣習や常識、傾向があるのだろうか。
そこで、本記事では、航空ジャーナリストの北島幸司さんに、航空機売買の現場を教えてもらった(以下、北島幸司さんの寄稿)。
航空会社は飛行機をどこで買っている?
われわれが普段利用するエアライン(航空会社)の航空機はどのように購入されているかご存じだろうか。
高い買い物ゆえ、米ボーイング社や仏エアバス社などへ航空会社の側から出掛けて商談する場合も当然ある。逆に、航空機のメーカーが、エアライン(航空会社)の購買担当を訪問し売り込む場合もある。そこらの自動車ディーラーや中古車販売店へちょっと出掛けて買う自家用車とは違う形の商談になる。
ただ、密室で行われる個別の商談だけがルートではない。航空機の売買は地域経済への影響力も大きいため、マスコミ報道を想定したイベント中に発表する場合もある。その舞台となるイベントがエアショー(航空ショー)だ。
世界のエアショーには幾つか種類がある。日本やアメリカのように、航空機のアクロバティック飛行を見せるお祭り的なエアショーが1つ。他には、見本市・商談会としての機能を持つエアショーも開催されている。後者のエアショーでは、航空機受発注が会期中に会場で行われる。
後者のエアショーの代表例は、イギリスのファーンボロ、およびフランスのルブルジェで初夏に開催される。歴史も長く、他のエアショーを商談額でも引き離し、世界一の規模と言われている。
欧州以外の例で言えば、2023年(令和5年)11月に、ドバイ・エアショー2023も開催された。エアショーは通例として、地元の航空宇宙産業の企業が大きく関与する。地域の航空業界の活性化は自社の収益にも直結するからだ。
「ドバイエアショー」でも中東勢の企業間で、航空機受発注の商談が欧州を追い越す勢いで進んだ。
逆に、アジア・オセアニア勢の商談は皆無に近かった。「ドバイエアショー」に対する意気込みは日本国内でも聞こえず、3団体(自衛隊・川崎重工業航空宇宙システムカンパニー・ナブラモビリティ)の出展にとどまった。ちなみに2023年(令和5年)夏の「パリエアショー」では日本から29団体の出展があった。
年に何度も出張し、費用を掛けて出展できない上に、地域の航空業界の活性化を各社が考えるとすれば、アジア・オセアニア各国のエアラインは、2024年(令和6年)2月開催のシンガポール・エアショー2024での発注を考えているのではないかと思われる。
エアバス社とボーイング社の両機材を航空会社が保有する理由
商談会の内容を振り返ると、航空機や世界経済のトレンドも見えてくる。
世界を飛ぶ旅客機の種別は、単通路(機内の通路が1本)で小型のナローボディ機の方が多い。世界の旅客機の9割以上を生産するボーイングとエアバスの過去の受注数を比較すると、ナローボディ機はワイドボディ機(機内の通路が2本)の4倍の数を記録している。
しかし、昨年のドバイエアショーでの受発注は、ナローボディ機が188機、ワイドボディ機が195機だった。ほぼ半数ずつの結果であり、ワイドボディ機の比率が以前と比べていかに高かったかが分かる。
この背景には、コロナ禍で乗客が減り、大きすぎるワイドボディ機を地上保管か売却せざるを得なかった航空各社が、コロナ禍収束の現在、新たな機材を求め発注を増やしたという事由が考えられる。
世界の旅客機の9割以上を生産するボーイング社とエアバス社の受注数はどうなったのか。LCC(格安航空会社)で、コスト面のメリットを優先し単一機材を保有する場合もある。しかし、一般的に、中堅以上のエアラインは、エアバス社とボーイング社の両社の機材を保有する。リスク管理のためだ。
一方の社の機材が、AOG(整備理由の留置き)になった場合でも、もう1社の機材を使用して運航を継続できる。過去のエアショーでも1社偏重の受発注は少なかった。
しかし、今回のドバイエアショーではボーイング偏重であった。具体的には、エアバス社86機に対して、ボーイング社297機だった。3倍の差だ。
この理由として、2023年(令和5年)初夏のパリエアショーで、ボーイング社の発注が大きかった反動を挙げる見方もある。
プラスして、エアバスA320neoシリーズでのエンジン、およびエアバスA350-1000でのロールスロイスエンジンの耐久性が問題視された事由が大きいと考えられる。日本でも、同様の事例がANA(全日本空輸)であった。
政府専用機はどこで買うの?
旅客機の話が続いたが、それ以外の航空機は、どのようにして受発注が行われるのだろうか。
例えば、政府専用機を考えてみる。日本政府は、ボーイング777-300ERを使用している。この機体は、伊藤忠アビエーション社(東京都港区)の防衛部門を通して購入された。
ビジネスジェットを代表するブランド「ガルフストリーム」や「ホンダジェット」においては、丸紅エアロスペース社(東京都千代田区)を通して購入する事例が目立つ。
以上のように、航空機購入にあたっては1つの窓口として、商社を通じた売買が存在する。
その他の航空機に関して言えば、日本で営業するジェネラルアビエーション(GA、定期航空運送事業を除く民間の航空活動の総称)業界の各社が、海外で生産する機体の日本総代理店などに指名されているため、その手の企業を介して注文するケースも多い。
例えば、セスナ機のような小型機では、米テキストロンアビエーション社のプロペラ機販売代理店として、商社の双日(東京都千代田区)グループ会社であるジャプコン社(岡山市)が販売窓口となってくる。
世界で爆発的に売れている米ロビンソン社のR22~R66(ヘリコプター)の場合も同様に、日本のジェネラルアビエーション(GA)業界の6社が日本総代理店に指名されているので窓口となってくれる。
日本の航空宇宙工業の生産額は7位
以上のように、われわれ一般人の知らない場所で、さまざまな航空機が取り引きされている。しかし、残念ながら、日本の航空宇宙産業の規模は世界的に見て大きいとは言えない。輸送機器製造産業における日本の立ち位置を見ると航空分野が特に弱いのだ。
自動車の生産量は中国・米国に次ぐ3位。造船は、中国・韓国に次ぐ3位。鉄道は、売上世界4位の日立製作所がある。それらに比して、航空宇宙工業の生産額は主要国で、カナダに次ぐ7位の位置にある。
日本の航空宇宙産業の旗振り役となる日本航空宇宙工業会が主催する2024国際航空宇宙展(JA2024)は2024年(令和6年)10月に迫っている。日本の技術を世界へ発信し、日本の航空宇宙産業の規模拡大を目指す重要なイベントだ。
海外企業の出展をここへ招へいするのであれば、日本も海外へ出ないと釣り合わない。「ドバイエアショー」への出展が3団体にとどまった点は残念だ。
国の支援を含めた積極的な関与も必須となる。航空宇宙業界に対する国民の理解・関心の高まりも不可欠だと思う。この記事を通じて航空宇宙産業に興味を持つ人が1人でも増えればと願う。
[取材・文/北島幸司]
[参考]
※ 一般社団法人 日本航空宇宙工業会2023年8月発行 航空宇宙産業データベース