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中国船、相次ぐ領海侵入。日本人の「アメリカが守ってくれる」幻想

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「アメリカが守ってくれる」は幻想

中国アメリカ

 このまま中国が現在の海洋戦略が進めるならば、このシナリオが現実のものになる可能性は高まる。日本の新聞やメディアも、日本の平和安全、経済的繁栄を中長期的に考え、今後想定されるリスクをもっと真剣に報道していくべきだろう。

 また、このシナリオにもあるように、アメリカが日本の有事にどこまで協力するかも考えないといけない。日本人の中には、「日本が周辺国との戦争に巻き込まれたらアメリカが守ってくれる」といった根拠のない意識を持っている人が少なくない。

 日米安全保障条約第5条には、確かに米軍の対日防衛義務が明記されているが、どこまで協力するかは、その時のホワイトハウスの政策判断によるのである。そして、米軍が自衛隊の前に立って最前線で戦い、米軍より自衛隊の犠牲のほうが少ないという考えも持たない方がいい。

 当たり前であるが、アメリカにとって一番重要なのは、アメリカの経済的繁栄であり、アメリカ領土とアメリカ人の安全である。自国民より日本人の命を優先することはまずない。

今後大きな影響をもたらす可能性も

 一般的なアメリカ人は、そもそもアジアの安全保障に関心なんて持っておらず、自国の経済や治安が最重要課題なのは、今のアメリカを見ても明らかだ。一方、日本経済にとってもこのシナリオは恐ろしい。日本のシーレーンは南西諸島の東側を通るが、那覇空港へのミサイル攻撃など沖縄本島周辺でも緊張が高まれば、シーレーンを通る船舶の安全な航行にも大きな影響が出てくる

 また、東シナ海での日中衝突は、そのまま中国の内海化しつつある南シナ海にも伝染する。すなわち、シーレーンの要衝である南シナ海で、日本の石油タンカーなどが意図的な衝突、拿捕の被害に遭うリスクが一気に高まる。

 南シナ海上の安全な航行が失われると、日本の船舶はボルネオ島とスラウェシ島の間を通ってセレベス海を通過するなど東側のルートを考えざるを得ず、それだけでも大きな出費と時間を要する。今回、アメリカのシンクタンクから公表されたシナリオは、単に尖閣だけの問題ではなく、日本の政治、経済の両面に大きな影響をもたらすかもしれない。

<TEXT/国際政治学者 イエール佐藤>

国際政治学者。首都圏の私立大学で教鞭をとる。小さい頃に米国やフランスに留学し、世界の社会情勢に関心を持つ。特に金融市場や株価の動きに注目し、さまざまな仕事を行う。100歳まで生きることが目標

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