首都圏名門校が茨城を選ぶ理由 アーストラベル水戸が仕掛ける、教育旅行の新たなかたち

首都圏の学校が、茨城の農場や研究機関をわざわざ訪ねるようになっている。仕掛けているのは、茨城県水戸市に拠点を置くアーストラベル水戸株式会社(通称・あす旅)。観光地を巡るパッケージではなく、学校ごとにゼロから設計するオーダーメイドの教育旅行を手がける。首都圏校のリピート率はほぼ100%。代表の尾崎精彦さんに話を聞いた。
茨城を丸ごと、学びの舞台に
同社が手がけるのは、学校ごとにゼロから設計するオーダーメイドの教育旅行だ。茨城の農業現場、JAXA・KEKを擁するつくばの研究環境、スタートアップ企業。これらを”学びの舞台”として組み合わせ、子どもたちが地元の人と直接対話しながら手を動かすプログラムをつくる。観光名所を巡って写真を撮って終わる旅行ではなく、学校ごとの課題や学年のねらいに合わせて体験の中身を変えていく点が特徴だ。
事業は教育旅行にとどまらない。職場体験プログラム「シゴトリップ」、首都圏校向けオーダーメイド型学習旅行、企業研修、自治体連携事業と、旅行会社という枠を超えた展開を続けている。
茨城44市町村中34市町村をフィールドに173の事業所と連携を行い、2025年度の実績は県内55校・首都圏6校が参加。延べ13,089名にのぼり、ここ2年間で参加生徒数は約3倍になった。首都圏校のリピート率はほぼ100%だ。東洋英和女学院小学部をはじめ、関東学院中学校高等学校、鎌倉学園中高など、首都圏の名門校が継続して茨城を選び続けている。
代表を務める尾崎さんは埼玉県川口市出身。1999年に東急観光(現・東武トップツアーズ)に入社し、営業を担当した。名所を巡る従来型の旅を売り続ける中で、「子どもの心が本当に動くのは”人の現場”だ」という感覚がついて回っていたという。整備された観光地を移動するだけでは届かない何かが、ずっと気になっていた。その思いから、2007年にアーストラベル水戸の事業へ参画する。
転機は2020年のコロナ禍だった。業界全体が停止する中、尾崎さんは第三者承継で代表に就任。多くの旅行会社が縮小・撤退を余儀なくされる状況で、観光中心のビジネスを教育旅行へと大胆に再設計。以降5年間で年平均120%の複利成長を続けている。現在は一般社団法人「森と未来の学校」代表理事、総務省地域力創造アドバイザーも務める。
「地元の埼玉県から海に行くのって一大イベントなんですよ。だからこそ、海がある茨城の日常が新鮮に映る部分があって、ハマグリが採れる時期なら朝7時に家を出て、20分で海に行ってハマグリを採ってから出社できたりもして、めっちゃ面白いんです」
どの地域の人も、自分が住んでいる場所の面白さにはなかなか気づかない。外から入ったからこそ、地域を丸ごとコンテンツとして見渡せる。それがこのビジネスの起点にあるという。
ボランティアじゃなく、ビジネスとして

取材当日、都内の名門学校・東洋英和女学院小学部の児童たちが、のどかな風景の中で土にまみれつつ、嬉々としながら麦踏みを行っていた。
「アーストラベルさんは、よくある観光地に行って終わりの体験ではないものを提案してくれるんです。普段、都内の中心で過ごすこの子たちにとって、このような自然の中での体験はきっと心に深く刻まれると思います」と、引率の先生は話す。
尾崎さんは「観光資源って、絶景とか温泉地とか京都とか北海道とか、そういうわかりやすいものだけじゃない。茨城には農業・漁業・林業、1次産業が全部あって、それを体験として売り出すことをいま力を入れています。あと、首都圏から車で1時間半ほどで来られるので、一つひとつの場所で濃密な時間を過ごせるのも魅力だと思います」
地域の事業者との関係についても、同社の姿勢は明確だ。
「社会貢献はボランティアベースになりがちです。でも、それだと続かない。重要なのは地元の方にプラスになることなので、しっかりとビジネスとして構築することが大事です。そうして事業者さんにはプロとして子どもたちに話してもらうようにしています。『ボランティアだしこの辺の話でいいでしょ』という風に話すと、子どもたちは敏感で見透かすんですよ。それはどっちの利にもなりません」
その言葉を裏付けるように、今回、麦ふみ体験の場を提供したさいとうファームの斉藤卓也さんはこう振り返る。

「以前から学校の職場体験や行政からの依頼で受け入れはしていたんですが、やっぱりそれってボランティアなんですよね。アーストラベルさんが入ってくれたことで、それがビジネスという仕組みに変わった。お金をいただけることで、より質の高いものを提供できる。すごく循環が良くなっています」
こうした考え方は、宿泊事業者との連携にも広がりつつある。茨城の海沿いには民宿が多いが、平日はなかなか埋まらない。「土日は勝手に埋まるじゃないですか。そこに乗っかっても意味がない。平日に来てもらって、しかもうまくやれば毎年来てくれる。だから平日を埋めていく施策をしようと」。教育旅行であれば平日の稼働が基本になる。民宿に分宿してもらうことで、地元にお金が落ち、食事や宿泊の稼働率も上がる。

「茨城に小さい頃に来ると、大人になっても茨城いいなってなる。京都修学旅行ってみんな行くじゃないですか、大人になっても京都いいなって。その茨城バージョンを作りたい」。教育旅行を入口に、地域経済そのものを動かす仕組みへ——その構想は、旅行会社という枠をすでに超えているように思える。
文・写真:土田洋祐