消えゆく在来野菜にテクノロジーは何ができるのか──住友金属鉱山「SOLAMENT®」が拓く新しい農業

3月19日(木)~3月22日(日)の4日間、東京渋谷区「ワタリウム美術館」にて住友金属鉱山による「絶滅危惧野菜を救え POP UPショップ」が開催された。当ショップの主役は、古来から脈々と受け継がれてきた在来野菜たち。実はいま、それらが深刻な絶滅の危機に瀕しており、その存続をかけたプロジェクトが立ちあがった。そのプロジェクトのキーマンである2人に話を尋ねた。
在来野菜をテクノロジーで救え!衰退構造と再生の可能性
現在、日本の農業において流通の中心にあるのは「F1種」と呼ばれる商業品種だ。形や収量が安定し、大量流通に適しており、家庭から飲食店まで、日ごろ口にする野菜のほぼすべてに該当する。
一方で、日本には地域ごとに受け継がれてきた古来種・在来野菜がある。九条ネギや加賀レンコンなどに代表されるそれらは、土地の風土に根ざし、食文化とも密接に結びついてきた。しかし、規格化の難しさや収量の不安定さに加え、生産者の高齢化や担い手不足などを背景に、直近100年で約75%の品種が失われたとされている。(※1)
さらに近年は、気候変動がその存続に追い打ちをかける。気温上昇により昼間の高温だけでなく夜間の気温も下がりにくくなり、従来の環境に適応してきた在来野菜にとっては生育が難しい状況が続いているのが現状だ。

こうした背景のもと立ち上がったのが、「絶滅危惧野菜を救え」プロジェクトだ。
プロジェクトの核となるのは、住友金属鉱山株式会社が持つナノ微粒子技術「SOLAMENT®」である。
可視光を通しながら、気温上昇の原因となる近赤外線を吸収するこの素材を農業用の遮熱ネットに応用することで、作物への高温被害を抑えると同時に、生産者の作業環境を改善し、在来野菜の栽培継続を支えることを目指している。

事前の実証では、ビニールハウス内の気温が約3〜4度低下。さらに地温も最大で約8.5度低下するなどの結果が確認され、イチゴ農家では苗のしおれが従来の約3分の1に抑えられるなどの明確な効果が見えたという。現在は在来野菜を扱う農家を含め、全国で約20の農家、また国内外の研究機関と連携を行っている。
また、この取り組みは単なる農業支援にとどまらない。素材技術、農業知見、さらにはデータを組み合わせながら、栽培から流通までを含めた“新しい農業のかたち”を模索する試みもある。
元より在来野菜は、JAをはじめとする体系的な農業指導のもとではなく、それぞれの地域で想いのある農家、自らの手によって受け継がれてきたものが多い。特定の土地や気候に強く依存するケースも多く、栽培方法も暗黙知になりがちだ。新規就農者にとっては参入のハードルが高い。

「栽培環境の安定化や知見の可視化が進めば、在来野菜は“特別なもの”から“選択できるもの”へと変わっていく可能性がある」と、本プロジェクトの監修を行う「warmerwarmer」の高橋一也さんは語る。その結果として、担い手の拡大や流通の広がりにもつながるなど、経済的な側面においても期待されている。
キーマン2人が語るプロジェクトの真意

本プロジェクトの中心人物である「warmerwarmer」の高橋一也さんと、「住友金属鉱山株式会社」にてSOLAMENT®のブランドプロジェクトをリードする石橋佳祐さんに話を聞いた。
──まず、高橋さんが在来野菜に関わるようになったきっかけを教えてください。
高橋さん:有機野菜のバイヤーをしていたとき、在来野菜を食べてそれまでにないゾクゾクする感覚があって衝撃的でした。それと同時に「これを残していかなければ」と思い、引き売りを始めて徐々に在来野菜を育てる農家さんたちと知り合っていきました。
──在来野菜の魅力や価値とはなんでしょうか?

高橋さん:味はもちろんなんですが、文化や歴史といった価値も秘められていると思います。大根一つとっても、地域によって姿形も違かったり、郷土料理との関わりがあったりして面白いんです。そこにはビジネス効率の観点だけでは測れない魅力があると思います。見た目も特徴的でカッコいいものが多いですよね(笑)。
最近では、若い農家さんたちの間でも、在来野菜を始めていきたいという人も増えています。
──本プロジェクトについての反応は?
高橋さん:最初は半信半疑でした(笑)。ただ、話を進めていくうちに共鳴できるところがあって、農家さんたちに話をしてみたら、やりたいと手を上げてくれる人が多くて。それが後押しになって本格的にプロジェクトがスタートしていきました。在来野菜をやっている人たちは、自分で考えて工夫するのが好きなので、新しい取り組みにも柔軟なんだと思います。
──取り組みの根幹を支えているのがSOLAMENT®だと思います。この技術はどのように農業へ応用されていったのでしょうか。

石橋さん:もともとは車の窓フィルムなどに使っていた素材なのですが、農業資材メーカーから遮熱用途での相談をいただいたのがきっかけです。温暖化が進む中で熱の課題はさまざまな分野で顕在化しているので、この技術が農業にも応用できるのではないかと考えました。
──かなり高度な技術ですよね。
石橋さん:ナノレベル、電子レベルで制御する必要がある技術なので、金属に関する知見が不可欠です。1590年の創業以来、金属に向き合ってきた住友金属鉱山だからこそ実現できた技術だと思っています。今回のように、文化的な価値を持つ領域と掛け合わせることで、新しい可能性が見えてきていると感じています。
──最後に、今後の展望について教えてください。
高橋さん:野菜を育てることは、その後ろにいる生産者の方や食文化を守ることにもつながっています。本プロジェクトのような取り組みで在来野菜を守り、そしてその存在が一般化して知る人が増えていけばその価値も広がっていく。
効率や均一性が求められる今の農業の中で、在来野菜はある意味“カウンター”の存在でもあります。でも、だからこそ残していく意味がある。農家さんが長く続けられる環境をつくりながら、未来への可能性を育てていきたいと思っています。
最先端技術が拓く農業の未来
多様な価値観が息づき共存する現代。食文化の多様性は広まりつつある一方で、それに使われる食材は日に日に画一されているようにも思える。
在来野菜は、遠い過去から受け継がれてきた大切な資源であり、文化であり、アイデンティティの一つでもあると感じる。技術と文化。その両者が交わることで、新たな農業の可能性が見え始めている。

取材の最後、野菜とともに撮影をしていたとき、在来野菜の八事五寸人参を手に取り、「この人参は泥が噛みやすいから掴むように洗うんです。生産者の方たちに教えてもらいました」と、話す高橋さんの目は、優しく輝いていた。
※1 Food and Agriculture Organaization of the United Nations
warmerwarmer
高橋一也
1970年、新潟県生まれ。「キハチアンドエス青山本店」で料理人として勤務したあと、「ナチュラルハウス」の有機野菜のバイヤーを経て2011年に独立し、「warmerwarmer」を設立。古来種野菜の流通・販売、有機農業者への支援やオーガニック市場の開拓を行う。著書に『古来種野菜を食べてください。』(晶文社)他。
住友金属鉱山株式会社
石橋 佳祐
1991年、横浜市生まれSOLAMENT®プロジェクトにおけるブランドプロジェクト立ち上げから浸透施策までをリード。重工業、工場自動化業界での海外事業開発、事業企画部門を経て住友金属鉱山(株)に2022年10月より参画。
文:土田洋祐
写真:土田洋祐、住友金属鉱山株式会社