ラジオに人生を救われた、若き女性起業家が目指す「話せば食べていける世界」
ラジオの「ハガキ職人」は物静か
その後も「ラジオネーム」を名乗って番組への投稿を続けたという井上さんは、定期的に番組へのネタ投稿をしているリスナーの交流会にも参加し、交友を深めたという。
「面白い投稿で笑わせていただいている『ネタ職人』の皆さんに、お目にかかれる嬉しさはありましたが、実際にお話しさせていただくと、思い描いていた姿とは異なる印象を受けました。
イベントに参加する前は、『とにかくおもしろい、話術で畳み掛けてくるような芸人さんみたいな方』ばかりが揃っているのではないかと思っていました。でも、実際にお会いしたリスナーの皆さんは物静かで、なかなか口火を切りたがらない方が多い印象を受けました。
面白いことを考えられるはずなのに、自ら面白い人間だとアピールしたりしない。そのギャップを経験して、脳内で面白いことを考えていても、それを人前で話している方ばかりではないということに気づきました。
実名を名乗り、他人の目を見ながら話すには大きなハードルがある。なのでラジオトークでは、自分の顔写真やアイコンを掲載しなくても、自分の番組が配信できるような設計をしています。自分の顔写真を出しても良いですが、自分とは別の新しい人格を作り、日常を一切気にせずに脳内を解放することもできる。リスナーの皆さんとの出会いが、サービス作りのヒントになりましたね」
プロデューサー経験がヒントに
大学生活も佳境に差し掛かり、就職活動を迎えた井上さんは「物づくりがしたい」という想いや、インターネットのサービスに影響を受けて育ったこと、想いを発信すれば、誰かが受け取ってくれる素晴らしさを知った経験を基にして、個人向けのサービスを展開するインターネット企業を中心に選考を進めていった。
そのなかで、エキサイト株式会社への入社の決め手となったのは、当時社員として働いていた明石ガクトさん(現ワンメディア株式会社代表)との出会いだったという。
「明石さんが、『学生の時にYouTubeに感銘を受けて、インターネット企業に入ることを決めた』とお話ししてくださいまして、シンパシーを感じました。もしかしたら『憧れ』もあったのかもしれませんね」
その後、エキサイトに入社した井上さんは、手芸の投稿型サービスの「アトリエ」(2020年4月アトリエ株式会社にサービス譲渡)や翻訳サービスの企画立案などを経験。「幼い頃から馴染みがあった」という投稿者と閲覧者、そして課金者のコミュニケーション作りにやりがいや面白さを感じながら、キャリアを積み重ねていった。