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「ひきこもりはメディアに殺された」元当事者が語る、報道の罪

コラム

引き出し屋に「都合のいいストーリー」が生まれた

 川崎と練馬の事件後、TVが頼ったのは、やはり引き出し屋だった。彼らは、事実上抜け出せない刑務所のような施設を運営しているにもかかわらず、「ひきこもりは犯罪予備軍ではない」とTVで解説していた。

 しかし、ひきこもりを犯罪予備軍や悪のイメージに仕立て上げてきたのは、犯罪者のようにひきこもりを施設に閉じ込めてきた引き出し屋だ。

 彼らが、ひきこもりを放置すれば「自傷他害の恐れがある」と視聴者の不安を煽り、ひきこもりの危険性をアピールしてきた。また、自分たちの施設が用意した職場でひきこもりを働かせ、「自分は甘えていた」とひきこもり経験者に証言させてきた。

「ひきこもりは危険で甘えている。だから我々の活動が必要だ」そんな、引き出し屋に都合のいいTVのストーリーを信じ、3か月で500万円、6か月で800万円もする寮に息子を入れてしまった親御さんは多い。

3か月で500万円の業者がTVで解説

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 ある女性は、人気フリーアナウンサーが司会を務める朝の情報番組の映像をYouTubeで見つけ、引き出し屋を知った。

「変なところをテレビが放送するわけがない」。メディアを信用した結果、3か月で500万円という金額も「これだけ高いから、息子に良くしてくれるだろう」と考えて契約してしまった。しかし、女性の期待は裏切られた。施設のひどい扱いから息子はすぐに逃げて来て、お金は一部しか戻らなかった。

 こうした引き出し屋ばかりがTVに取り上げられるのは、まともな支援団体が、ひきこもり当事者にカメラを向けることを許さず、取材を拒否するからだ。すると、ひきこもり当事者を使って宣伝を企む自立支援ビジネス業者がTVで取り上げられることになる。彼らはTVで紹介される時は、美談にされやすい。コメンテーターも「こういうところに相談するべきだ」などと無責任に薦めたりする。

 しかし、引き出し屋の実態は美しくない。

 TVで紹介されたことのある引き出し屋の被害者で、連れ去られた恐怖のために今でもまともに眠れ無いと話す男性は「基本的には、誘拐に当たるような虚偽の言葉を使って連れ去られ、行かないと意思表明をした人も、引きずられたり、手足を拘束されたり、お姫様抱っこをされて車の中にぶち込まれます」と語った。彼らは、説得や対話を謳っておきながら、説得がうまくいかなければ、本人の意向を無視して強制的に連れ去っている。

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