岸田首相はなぜ「聞く力」を強調するか?背景には「脱アベ政治」の意図も
民主党から政権を奪われた自民党が、再び政権を奪還したのは2012年12月の衆院選でした。2022年は自民党が政権に復帰してから10年の節目にあたります。2021年、自民党は新しい顔として岸田文雄総裁を選出。そのまま首相に就任したわけですが、総裁選・衆院選を通して岸田首相は「聞く力」を掲げました。なぜ、岸田首相は「聞く力」を強調したのでしょうか?
首相官邸や政界の取材歴が10年超のフリーランスカメラマン小川裕夫(@ogawahiro)が、安倍・菅政権を振り返りつつ、政界の動きをおさらいします。
岸田首相が主張する「聞く力」
2021年10月、岸田文雄議員が首班指名を受け、第2次岸田内閣が発足しました。岸田首相は、直前の衆院選で勝利し、自民党は絶対安定多数を確保。連立を組む公明党と合わせて、政権を揺るぎないものにしています。
岸田首相は、総裁選の出馬時から自身の持ち味を「聞く力」であると主張。総裁選や衆院選でも藍色の手帳、いわゆる「岸田ノート」を手に、多くの国民からの声を聞き取っていることを明かしていました。
近年、政治家は「言う」ことが注目されがちで、「言う力」のある政治家に人気を集めてきました。しかし、岸田首相は「言う力」ではなく、「聞く力」を強調しています。
なぜでしょうか? 本来、政治家は「自分の政策を言う」ことよりも「人の話を聞く」ことが職分です。なぜなら、政治家は自分のために仕事をするのではなく、国民(他人)のために仕事をしなければならないからです。
アベノミクスが流行語になった要因
国民(他人)のために仕事をするならば、国民(他人)から話を聞き、何で困っているのか? どうしたら、それを解消できるのか? を考えなければなりません。前述したように、近年は「言う」政治家がもてはやされてきました。そうしたムードからの転換を図るべく、岸田首相は「聞く力」を打ち出したと考えられます。
岸田首相が「聞く力」を強調するようになった背景には、長く続いてきた自民党政権による歪みがあります。2012年12月、安倍晋三総裁が率いる自民党が民主党から政権を奪還。アベノミクスと呼ばれる大胆な経済政策が始まります。
異次元金融緩和・財政出動・成長戦略の三本の矢からなるアベノミクスは、安倍元首相が繰り返し口にしたことで流行語にもなりました。難解な経済政策を “アベノミクス”という一般的にわかりやすい用語に置き換えたことも一因ですが、アベノミクスが流行語になった要因には安倍元首相の強い発信力があります。