ラジオに人生を救われた、若き女性起業家が目指す「話せば食べていける世界」
スマートフォンの音声配信プラットフォームを運営するRadiotalk(ラジオトーク)株式会社は2020年10月、およそ3億円の資金調達の実施を発表した。
代表を務めるのは「学生の頃からラジオが大好きだった」と話す井上佳央里さん(30歳、@JD_KAORI)。急成長を続ける音声ビジネスの現状や将来像、そして会社設立と代表就任に至るまでの苦労の裏側について聞いた。
誰とも話せなかった小学生時代
井上さんはインターネットサービスでメディア事業や課金事業などを運営するエキサイト株式会社に新卒で入社。その後、社内ベンチャー制度で新規事業を立ち上げ、現在は社長として奮闘。一見輝かしいキャリアを歩んでいるように見える彼女だが、孤独な幼少時代を過ごした経験があるという。
「小学生のころはほとんど友達もいなくて、誰ともコミュニケーションが取れない子だったんですよ。休み時間は朝礼台の下とかに身を隠し、じっと始業のベルを待つ。そんな日々でした。日常生活では自分の意見を発信できなかったので、インターネット上にあるさまざまな掲示板に投稿したりして、必死に自分を保っていました」
中学に進学した後には無事に友達もできて、楽しい学生時代を過ごすことができたという井上さんだが、ラジオトークの立ち上げにあたっては、幼少期の「ツラい経験」が強く反映されているそうだ。
「事業を始めた時にも壁にぶつかった時にも支えになったのは、『自分を知ること』でした。改めてターニングポイントを振り返ってみたのですが、インターネットの力を信じきれるのは、誰とも話せなかった子供のころに、掲示板への書き込みを通じて自分に共感してもらえた『原体験』があるから。サービスを作る際にも、あの頃の経験が役立ちましたね」
つまらない時間を楽しくするラジオとの出合い
「もともとラジオ好きだったことが、音声ビジネスを始めた理由だ」という井上さんが、ラジオの魅力に触れたのは高校3年の終わりごろ、爆笑問題の番組がきっかけだったという。
家にはラジオの受信機がなかったのですが、動画配信サービスで爆笑問題の漫才を探していたら、ラジオの存在を見つけました。そして2010年にradikoが登場したことで、毎週欠かさず番組を聴けるようになりました。
ラジオを付けていると、例えば洗濯物を畳むような『ただカロリーを消費するだけの生産性のない時間』でさえも、楽しい体験に変わるんです。どんなにつまらないことであっても、笑いながらできる。そのことに気付いた時は衝撃を受けましたね」
その後、井上さんの日常生活に欠かせないものになっていったラジオ。時には経験さえも、プラスの記憶に変える力を持っていたという。
「ある時は自分にとってショッキングな出来事があったんですよ。なかなか周囲の友達にも言えないような内容だったんですけど、『嫌な思い出として自分の胸中に留めておくよりは、誰かの笑いを取れたらいいな』と、その時のことを赤裸々に書いて、爆笑問題さんの番組に送りました。
すると投稿が読まれ、さらに(番組内の)賞までいただけて……。ラジオのおかげで、嫌な出来事も一生の思い出に変えることが出来たから、いつか恩返ししたいなとは思っていました」