会社員と「フリーランス」どっちが恵まれている?<小田嶋隆×西谷格>
40歳を過ぎたライターは怒られない
――編集者に怒られるとかはなかったですか?
小田嶋:若いころはすごくありました。こっちが20代のころは、逆に言えば怒ってくれたわけです。怒ってもらえるというのは、編集者がこっちの姿勢を改善してやろうと思ってくれているわけなんだけど、ある年齢になると、叱るとか叱らないとか、そういう関係ではなくなります。
仮に不愉快なことがあった場合でも、編集者は、40歳を過ぎたライターに対しては怒るというよりは、無視しますよ。だから怒られるほうがむしろいいのかもしれない。
――編集者への不義理とかはなかったですか?
小田嶋:原稿を締め切りまでに書けず、落として掲載できなかったことがいくつかありました。それぐらいじゃないですか。でも、原稿を落とすっていうこと以上にひどい話はないですからね。落としたのは酔っ払い時代が一番多かったです。
20年ぶりに原稿を落とした…理由は?
――確かにそうですね。
小田嶋:ただ、最近20年ぶりぐらいに原稿を落としてしまったんですが、ある雑誌でコンピューターの解説記事を4ページ依頼されたんです。昔さんざんやった仕事だし、自分はできると思ったんだけど、いざ書こうと思ったら、10年以上やってないからなのか、どう手をつけてみても見当がつかなくて、結局断念しました。
解説記事のフォーマットがすっかりわからなくなってて、迷っているうちに締め切りがきてしまった形です。で、編集者から連絡がきたときに「どうもあの、書けるつもりでここまで引っ張ってきたんですけど、やり始めてみたら全然書ける気がしません」という話をしました。やり慣れてないことって、できなくなっちゃうんですね。
――運の良さが大事っていう話が印象に残りましたが、結局、どうすれば運が良くなると思いますか?
小田嶋:いやー、わかんないですね、それは。麻雀でカンチャンが3つぐらい入るとすぐテンパれるよって言うようなもので、カンチャン入れる方法とかってないですから。それに、カンチャンのツモリ方っていう本があったら、それ、インチキですから。ごめんなさい。
<取材・文/西谷格 撮影/詠祐真>