『13歳のハローワーク』の呪縛は今日も会社員を苦しめる――人気コラムニストの「仕事論」
ライターの仕事は「どこかで息の抜き方」を覚えるべき
――怠けても大丈夫と言われると、僕はもっと怠けてしまいそうですが。
小田嶋:ライターって根は勤勉な人が多くて、私も言ってみれば本来の性質は勤勉なほうなんですよ。ものを書く作業って、細かい部分を直したりチェックしたりする作業の積み重ねだから、そもそも勤勉な人間じゃないとできない仕事なんです。
だからこそライターの仕事は、どこかで息の抜き方とか、自分を安心させる方法を持ってないと、それこそ書いている自分の精神がもたなくなります。
――文章を書き進めたり直したりするのって、確かに細かい作業ですよね。
小田嶋:ものを書く作業って、何かを突き詰めたり、細部をえぐったり、論理やストーリーを積み上げていったりという、積み木みたいな緻密な作業じゃないですか。
緻密な仕事をコツコツやるのって、実は才能もへったくれもなくて、一番大切なのは根気と緻密さなんです。精神的にすごく疲れる作業だから、仕事が終わってほっとした時に、いい仕事ができたなと思ったり、人からちょっとほめられていい気になったりということがないと、なかなかやってられない仕事だと思うんです。
文才っていうのは最後の一押しみたいなもの
――ライターにとって文才は大事ではない、という人もいますね。
小田嶋:あるに越したことはないけれど、文才っていうのは最後の一押しみたいなものですよね。ほら、フランス料理のシェフが、最後に皿の周りにポタポターってソースを垂らしてお皿をデコレーションするじゃないですか。ああいう感じのものですよ。
あれがなくても、ひとつの料理としては成立しているけど、ソースの飾りがあるより見栄えがするよねというぐらいのものです。最後に「あーさすがプロだな」っていう飾り付けみたいなものが文才に当たるわけだけど、その前の素材選びだとか下ごしらえだとか煮たり焼いたりといった料理の作業が本来の仕事なわけですから。
――なるほど。ほかに今の若い人に何か伝えたいことってありますか?
小田嶋:今の若い人っていうより、もう少し年齢が上の人たちだったかもしれないけど、自分探しが流行った時代がありましたよね。村上龍が『13歳のハローワーク』っていう本を作ったころです。