<第2回>平穏だった商品世界!そこへ「アイツ」がやってきて…!?――『貨幣論』と『トイ・ストーリー』を混ぜてみた
平和で平穏な「商品世界」だけれど……
ところがある日、リンネルはこんなことを思うのです。
そして、リンネルは一人で冒険に出ました。日帰りの、ちょっとした冒険です。いつもの草原から離れて、すこし遠くの丘へ行ってみました。あなたがいつもは通らない道を、たまには歩いてみたくなるように、ほんの好奇心でした。
リンネルは驚きました丘をのぼって、その先を見下ろすと、渇いた大地に大きな穴があいていたのです。暗くて不気味な穴でした。
穴の近くに立て札がささっていました。リンネルは勇気を出してその立て札を見に行きます。そこにはこう書かれていました。
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カール・マルクスが懸命に開けた穴 ――岩井克人
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リンネル「カール・マルクス? なんだかよくわからないけど、知っている名前な気がする……」
しかし、いくら頭を捻っても、思い出せません。
リンネルはさらに勇気を出して、穴をのぞいてみることにしました。
すると、穴の中から音がします。カーン、カーンという硬い岩と鋭い金属がぶつかる音です。
しばらく聞いているとその音は止み、今度はゴロゴロと何かが転がってくる音がします。その音はどんどん大きくなっていくのです。
そう思った瞬間、穴から光り輝く塊が出てきました。ピカピカと眩しいぐらいに光っている物体です。
恐る恐るリンネルが話しかけました。すると、その物体は答えました。
リンネルは「金」と名乗ったその物体を連れて、仲間たちがいる草原へ戻ることにしました。「金」を見ているとなんだか落ち着きません。彼が自分たちと同じ「商品」なのかわからないからです。
コーヒー「ねえ、あの子は『商品』なのかしら? きみはどう思う?」
それに『金』をじっと見ていると、その中に引き込まれてしまうような何かがありました。
みんな落ち着きませんでした。「金」がこの世界に来たことによって、なんだか自分たちの関係性が変わりそうな予感がしたからです。
ふとリンネルが「金」に向かってつぶやきました。
リンネル「きみはすごく輝いているし、なんだか僕らとは違うような気がするよ」
それが、商品世界の平穏が終わった瞬間でした。
*ちなみにカール・マルクスとは……ドイツの経済学者、哲学者。「共産党宣言」や「資本論」を書いた人。労働者は資本家に搾取されていると考えた。
【次回予告】
マルクスの開けた穴によって、商品世界にやってきた「金」。この新キャラクターの登場によって、商品世界はどうなってしまうのか!? 『貨幣論』をトイ・ストーリー化する試みは、今始まったばかりである。
<TEXT/菊池良 イラスト/タナカカツキ>