<漫画>東京湾の深海にある「理想の水族館」を生んだ、ダイオウイカと“女性漫画家”の存在
はじまりは10年前
――椙下さんが深海生物を好きになったきっかけは、何だったのですか?
椙下:虫や魚など、いきものは小さい頃から大好きでした。出身が静岡で海の近くに家があったので、海のいきものは特に好きでしたね。幼稚園のときは動物の骨の絵本がお気にいりで、ずっと読んでいました。表側に動物たちの写真があって、めくると裏側にレントゲン写真がのっているんですけど、その本のいちばん最後にタコの写真が出てきて、めくると何も写ってないんです。
骨がないからまっくろのタコの絵になっていて、それを今でも覚えています。タコはそのときから好きになったのかなと。でも、海のいきものはみんな好きで、深海生物を好きという意識はなかったですね。
深海に興味を持つようになったのは10年前ぐらいからです。NHKがダイオウイカの世界初撮影に成功して、ドキュメンタリーも放送されたりして、世間的にも深海魚ブームというか、深海生物が大々的に注目されるようになった時期だと思います。
私も小学生のときに父親からもらって読んだ『海底二万里』の巨大イカが記憶に残っていたので、その映像を見て「あの怪物ってほんとに海にいたんだ! こういう姿をしてるんだ!」と衝撃を受けたんです。そこからかなり興味を持つようになって、水族館でアルバイトも始めました。
水族館のアルバイト経験を活かして
――すごい行動力ですね! 主人公の(天城)航太郎くんみたいなお仕事をされていたんですか?
椙下:10年前ってちょうど「将来、何になろうかな」と思っていた時期だったんです。小さい頃から絵を描くのも好きだったので、なれるかどうかはわからないけど、なんとなくイラストレーターとかになってみたいなという気持ちもあって。水族館でバイトをしながら、魚の絵を描き始めました。
私は航太郎くんのような清掃員や飼育員ではなくて、窓口でチケットを売ったり、館内を巡回したりする職員みたいな感じでした。館内にいるときは水槽をぼーっと見たりしていましたね(笑)。
――マグメルのお話も、水族館での経験がもとになっているんでしょうか?
椙下:そういうお話もありますね。8巻に描いた、目の見えないお客さんのお話は実際の経験がもとになっています。水族館に盲導犬を連れたお客様がいらっしゃったときに、私も航太郎くんが思ったのと同じように「同じ入館料をいただいていいのかな?」と一瞬思ってしまったことがあって、そこからお話が生まれました。
あとは、マグメルの世界で漁師さんを描こうと思ったのも、水族館でバイトしていたからだと思います。水族館って、漁師さんとの繋がりも多いんです。水族館の魚たちは漁師さんの船からくることがほとんどなので。そういう意味で、水族館での経験はとっても活きているなと思います。