「自分、負けに向かってるな」髭男爵が見た“一発屋芸人”前夜
新たな芸人の躍進に焦り「これは負けに向かってるな」
――結果的に芸人としての寿命が延びた、と。
山田:明らかに正統派では無理なのに、そこから離れられないコンビを一杯見てきましたから。反対に本来は正統派のタイプなのに、番組側の要請に合わせて“バケモノ化”していく芸人もいた。
しかも結局テレビには出られないっていう。僕らはあくまで自前のネタで、強制されたわけではないので、そういう苦しみはなかったですね。
――個人的な話ですが、2009年10月に髭男爵の2人が『オードリーのシャンプーおじさん』(文化放送)に出演していたのを偶然拝聴していまして。そこで山田さんが「オレの番組が隅に追いやられる」とオードリーにやっかんでいたのが印象的でした。
山田:よく覚えてますね(笑)。お二人が2008年のM-1で準優勝して出て来て、因果関係なんか全くないのに「仕事減ったな」と勝手に思っていたという。
そもそも、シルクハット被ったキャラ芸人が何を色けだしとんねんっって感じでお恥ずかしい限りなんですが(笑)。その頃、ある売れっ子の先輩に、「お前らがやってた仕事、これからぜんぶ新しいやつに持って行かれるぞ!」みたいに言われてたこともあって。
おこがましい話なんですがが、同じ時期に出てきた他の芸人達をそういう目で意識してしまうのはある程度仕方がない。こっちも必死なので。
ただ、自分たちの戦力を考えると、当時の僕は「あ、これは負けに向かってるな」って意識が明確にあって。一刻も早くやっかむ方、負けた方のキャラにシフトチェンジしなきゃっていう焦りが強かったんでしょう。
“一発屋”を思わせる芸人さんについてどう思う?
――ネタ番組ブームが終焉を迎える前から“負け”を意識されていたんですか?
山田:そっちの立ち位置になったほうが話せるエピソードも多かったので。そうはなりたくないけど、背に腹は代えられない。当時は「早く一発屋って名乗らないと」って焦りがあったかと思います。
実際にテレビの打ち合わせとかで、「最近、調子悪くて一発屋ですわ」みたいに、話の水を向けてみるんですけど、スタッフの方からは「いや、まだ世間はそうは思ってないから」っていう……ややこしい時期ではありましたね。
――ここ最近で“一発屋”を思わせる芸人さんに、ひょっこりはんがいます。山田さんが見ていて何か感じるところはありますか?
山田:いや、めっちゃ面白いですよ。実際、あのひょっこり顔を軸にして1本ネタを作るのはすごい発明だと思います。
そもそも普通、あのフォーマットで勝負しようとはまず思わない(笑)。誰でもできることじゃないんです。発想もさることながら、ハートというか、芸人魂が強いなとリスペクトしてますね。