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国民的アニメのパロディ「ドザえもん展」と沖縄基地問題――アーティスト岡本光博が表現する世界とは?

コラム

「伊計島自治会長の2度の反対に」

 2つの大きなトピックを抱えた展覧会のはざまで作家本人は今何を考えて、何を思っているのか。話を聞いた。

『落米のおそれあり』2017

『落米のおそれあり』2017

――『落米のおそれあり』は、もともと岡本さんが沖縄に住んでいた2004年の沖縄国際大学へのヘリコプター墜落事故を受けて制作され、沖縄で発表された作品ですが、これを伊計島で再制作された動機は何ですか?

岡本:今回の作品は伊計島共同スーパー(地域住民が共同で出資して運営されている)のシャッターに描きました。当初の案では、沖縄を拠点に活動しているアーティスト石垣克子さんとのコラボレーションを考えていました。砕石が進み、近い将来岩肌が露出して行く宮城島の岸壁を、伊計島から臨む様子を描いた石垣さんの作品の隣に、マシンガンをぶっ放しているミッキーマウスをバンクシー風に描いた作品『Miyagijima Machingun』を発表するつもりでいました。大きな力によって島の風景を壊されて行く様子が作品を通して見えてくるプランです。

 この案で話が進んでいたのですが、伊計島の自治会長に「戦争を想起させる」という理由で却下されてしまいました。仕方なく再検討して、自分が2004年から数年間、沖縄に住んでいた頃と比べると、伊計島の上空に軍用機の数が明らかに多いことを感じました。それに10月11日の沖縄県北部の東村に米軍機CH53型ヘリコプターが墜落したニュースを受けて『落米のおそれあり』をあそこに描くことにしました。過去に発表した作品ではありますが、新しい意味が付加されたと思っています。

 島の多くの人が利用するスーパーですので、制作中に地元に暮らすたくさんの方々とお話しする機会があり、「オスプレイもかき加えたらいいよ」と言葉をかけてくださる方もおられたり、おおむね好評な印象でした。結果的には報道されている通り、再び地元の自治会長の反対によってベニヤ板で隠されてしまったのは残念です。

「作品の印刷を業者に断られたことも」

――岡本さんの作品は美術業界において「ずっこけユーモア」といったように冷笑的に扱われることも少なくないですが、そういった軽薄な側面を持ちつつ、非常に繊細な題材にユーモアを交えて様々な議論を巻き起こす作品に魅力を感じている鑑賞者も多くいることだと思います。今回の一件で起こった議論について感じていることがあれば教えてください。

岡本:米軍基地容認派の方々などからの短絡的な反応も少なくありませんが、今回は特に朝日新聞の記者の方が、実際に作品が封印されて見えなくなるまで密着してくださるなど今、考えるべき「地域アート」の問題として、議論がなされている印象です。沖縄で起きているさまざまな問題を、本土からやってきた私が発表することに沖縄で暮らしている方々には思うところがあることも理解していて、その上で地元の作家や関係者、住民の皆さん方とコミュニケーションをとりながら制作しました。

『赤絨毯』2006

『赤絨毯』2006

――「THE ドザえもん展 TOKYO 2017」についてお伺いします。タイトルから、この展覧会は現代美術作家が多数出品していて同会期に森アーツセンターギャラリーで行なわれている、現代美術作家によるドラえもんをモチーフにした作品を出品している展覧会「THE ドラえもん展 TOKYO 2017」を意識した展示であることが伺えます。展覧会にかける思いをお聞かせください。

岡本:『ドザえもん』は私の大学院修了制作で発表した比較的古い作品です。「ドラえもん展」が開催されるこの機会にぜひ東京で見せたいと思い、会場となるeitoeikoオーナーの癸生川さんと相談して実現しました。

 作家として長年にわたって活動している中で、近年、特に表現に関わる規制が強まっているのを肌で感じます。例えば私がパロディ的に用いたイメージを理由に印刷業者に出力を断られる、といったこともありました。

 著作権は当然大切なものではありますが「ドラえもん」のように一般大衆に深く溶け込んでいるイメージについてはパブリックに返してゆく必要性があるように思っていて、そういった問題提起も含んでいます。ちなみに現在まで「ドラえもん」の権利者からの申し立ては来ていません。

「THE ドザえもん展 TOKYO 2017」出品作品と作者の岡本光博氏

「THE ドザえもん展 TOKYO 2017」出品作品と作者の岡本光博氏

<取材・文/宮原ジェフリー>

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