<最終回>貨幣は死に、そしてよみがえる!――『貨幣論』と『トイ・ストーリー』を混ぜてみた
平和が訪れた商品世界──そしてキャベツ人形がやってきた
商品世界に平穏が戻ってきました。かつてのように商品たちは走り回って遊んでいます。リンネルはデッキ・チェアを敷いて、サングラスをかけて寝っ転がっていました。
リンネル「いやぁ~、今日も平和で最高だ」
そこへサーフボードを小脇に抱えたお茶が近づいてきます。やけに晴れ晴れとした顔です。
お茶「ねえリンネル、みんなでサーフィンにいこうよ」
リンネル「いいね。でも、ぼくは濡れたら重くなっちゃうから日向ぼっこしているよ」
お茶「そっか。まぁ、ぼくも混ざったらたいへんなことになるんだけどね」
そう言って上着やコーヒーと一緒に海に向かって走り出しました。その背中を見ながら、リンネルはぼやぁ~っと考えごとをしていました。
リンネル(ぼくたち商品がほしいときに貨幣が払われる……じゃあ、『究極の商品』が現れたらどうなるんだろう?)
しかし、その考えごともまぶしい太陽に溶けてしまって、いつしかリンネルはまどろみ、夢と現実のはざまでいい気持ちになっていました。すると、ぼんやりとした視界に走ってくるお茶が見えました。
お茶「たいへんだ、リンネル! 海の向こうからなんだかよくわからないやつらがやってきている!」
リンネル「なんだって!?」
リンネルは飛び起きて、お茶と一緒に海へ駆け出しました。
リンネル「これは……」
リンネルの目に飛び込んできたのは、海のむこうからやってくる大量のキャベツ人形でした。
キャベツ人形「ざっ」
キャベツ人形「ざっ」
キャベツ人形「ざっ」
リンネル「あれはなに!?」
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キャベツ人形──それはまさに差異性そのものの商品である。コンピュータ技術によって、顔の表情、エクボやソバカス、目の色、髪の毛、洋服に靴といったパラメターを組み合わせ、二つと同じものが存在しないこの人形は、従来差異性を生み出すためにはそのたびごとに新たな商品を考え出していかなければならなかった資本主義にとって、いわば極限的な差異想像の方法を示している。
(岩井克人『ヴェニスの商人の資本論』八五-八六頁)
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リンネル「また大変なことが起こりそうだ!」
(おわり)
<TEXT/菊池良 イラスト/タナカカツキ>
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