<第10回>経済学者・ケインズ登場!そして「ハイパーインフレって…なんだ?」――『貨幣論』と『トイ・ストーリー』を混ぜてみた
(この物語は岩井克人『貨幣論』がもし『トイ・ストーリー』だったら? という仮定のもとに書き進められています)
【第10回】経済学者・ケインズ登場!そして「ハイパーインフレって……なんだ?」
<登場人物>
リンネル:服の素材に使われる亜麻布のことで、英語で言うとリネン。
上着:新品の1着の上着。
お茶:美味しいお茶。
コーヒー:淹れたてのコーヒー。
<前回までのあらすじ>
紙幣であふれてしまった商品世界。その謎を解くため、リンネルは「穴」に飛び込んで人間世界へとやってくる。そこで見たものは、あらゆる商品が紙幣で売買される光景だった。リンネルは経済学者ジョン・メイナード・ケインズを連れて商品世界へと戻ってくる。
ハイパーインフレは止まらない
ケインズ「なんだ、これは……!?」
リンネル「ここは商品世界だよ」
商品世界に連れてこられたケインズは、驚きのあまり声をあげました。紙幣の海によって洪水が起こっており、辺り一面が紙幣となって荒れていました。
お茶「リンネル! 戻ってこれたんだね」
上着「その人はだれ?」
リンネル「ケインズさんっていう、お金に詳しい人だよ」
ジョン・メイナード・ケインズ……イギリスの経済学者。経済の安定には政府の積極的な介入が必要だとした。主著に『雇用・利子および貨幣の一般理論』。
ケインズ「ここが商品世界だって? ほんとうにあったのか……」
上着「そうだよ、おれたちは商品さ」
コーヒー「おじさんは違うようだね」
ケインズ「きみたちの最大の関心事はなんだい?」
コーヒー「ぼくたちの価値がどれぐらいで釣り合うかだよ」
ケインズ「はっはっは、なるほどねえ」
リンネルたちは商品世界で何が起こったかをケインズに説明しました。金が出てきたこと。紙幣がその代わりになったこと。商品世界を紙幣が覆ってしまったこと。説明をひと通り聞いたケインズは、しばらく思案したあとにこう言いました。
ケインズ「これはハイパーインフレだな」
リンネル「ハイパーインフレ?」
ケインズ「物価が上がり続ける状態を『インフレ』っていうんだ」
リンネル「じゃあ、ハイパーインフレは?」
ケインズ「物価が急激に上がって、貨幣の価値が下がってしまうんだよ」
そしてケインズは実際に起きたハイパーインフレの事例を説明しました。第1次世界大戦後のドイツでは、ハイパーインフレが起きて物価が1兆倍になり、パン1個が1兆マルクになったというのです。
上着「それはどうやったら止まるの?」
ケインズ「うーん、難しい問題だね。ハイパーインフレというのは、通貨が信用を失っている状態なんだ」
コーヒー「つまり、どういうことなんだよ!」
ケインズ「ちょっと考えさせてくれ……」
そう言うとケインズは船室のなかに入っていきました。