<第9回>世界の謎をたしかめるため、穴に飛び込んだリンネル。そこでは…――『貨幣論』と『トイ・ストーリー』を混ぜてみた
ニュースショーから聞こえた声
深い深い闇のなかを、どこまでも落ちていきました。すぐに上も下もわからなくなり、いつしかリンネルは気絶してしまいました。
リンネル「はっ」
リンネルが目を覚ますと、自分がどこかの棚に置かれていることに気がつきました。その棚は天井が高い屋内にあり、リンネルと同じような商品がたくさん置かれています。
リンネル「なんだここは……身体にも何か貼られているぞ……」
リンネルの身体には「720円」と書かれたシールが貼られていました。
リンネル「おーい! みんなここはどこなんだ!?」
叫んでも返事はありません。しばらくするとリンネルの前に誰かが立ちました。人間です。人間はリンネルを手にとって少し笑い、レジで貨幣を支払って、持ち帰りました。
リンネル「(ぼくは売られてしまったのか……! 720円で! 貨幣で!)」
人間の家に連れてこられ、リビングにいながら、リンネルはずっと考えていました。
リンネル「(なんで貨幣は商品の媒介として成立しているのだろう)」
リビングにはテレビが設置されており、ニュースショーで知識人がしゃべっていました。それは経済学者のジョン・メイナード・ケインズでした。
ジョン・メイナード・ケインズ……イギリスの経済学者。経済の安定には政府の積極的な介入が必要だとした。主著に『雇用・利子および貨幣の一般理論』。
ケインズ「市場には統制が必要だ」
リンネルは考えごとをしながら、ニュースを聞き流していました。
リンネル「(いったい貨幣って何なんだ……? 何でぼくらの世界はああなったんだ?)」
ケインズ「市場は放っておくと不安定になる。政府による財政・金融政策をしなければならない!」
強い口調でケインズが言うので、リンネルは何とはなしに視線をテレビに向けました。特に意識せずに聞いていると、それがどうやら貨幣について喋っていることだと気がつきました。
リンネル「(この人は貨幣についてしゃべっているぞ。この人なら、世界の秘密がわかるかもしれない!)」
リンネルのなかである考えがひらめきました。
リンネル「そうだ!」
リンネルは人間の家を飛び出しました。
そして、ニュースショーを収録しているスタジオまで、一直線に向かいました。
リンネル「おじさん、一緒にきて!」
ケインズ「えっ!?」
ケインズの手を引いて、リンネルが走り出しました。
【次回予告】
人間世界の市場を見てきたリンネル。いったい貨幣とは何なのか? 根本的な疑問にぶつかってしまう。リンネルはその答えを求めようと、ケインズを連れて商品世界に帰るのだった! 貨幣にまみれた商品世界を見たとき、ケインズは……!?
ケインズ「長期的に見れば、人間はみんな死ぬ」
Coming Soon.
<TEXT/菊池良 イラスト/タナカカツキ>