フリーランスに一番必要な能力は「痛覚のニブさ」だ――人気コラムニストの「仕事論」
フリーランス「40歳の壁」をどう切り抜けるか
――将来を思い悩むようなタイプは、そもそもフリーランスに向いてないのかもしれないですね。
小田嶋:実はフリーランスって、ある年齢になるとすごく仕事がやりにくくなるんですよ。“40歳の壁”とか言われていますよね。
私はそれほど感じなかったけど、実際そういう年齢の壁にぶつかっている連中を、横で見ていました。同じ実力だったら若い人を使うっていうのは、サッカーの代表チームじゃないけど、フリーランスの世界ではよくある話なんです。で、そういう時に落ち込んじゃうやつと、全然平気なやつがいるわけです。まったく同じような状況で。
――その違いは何なんでしょうかね?
小田嶋:痛覚のニブさですかね。フリーランスにとって実力や先見性、すばしっこさも大事だとは思うけど、そういうものが一番大事ではない気がします。
先のことが読める人間って、確かに能力は高いんだろうけど、逆に見え過ぎちゃうから。「ちょっとこの業界未来ないぞ」って思うと、業界そのものを見限って、違うところで何かやってしまう。まあ結果としてはそのほうが正解なのかも分からないけど(笑)。
でも、今の出版業界みたいにちょっと将来なさげに見えるとこでやっていくためには、そういうネガティブな面をあえて見ない、というか、先行きの不透明さに鈍感な人のほうが向いていますね。好きだからやってるんです、とか言えちゃうタイプです。
続けていれば「若いやつとは違う価値が出る」
――私も今37歳なので、これから仕事がどっと減る時期かもしれないですが……。
小田嶋:それで仮に仕事が減ったとしても、続けていると、やがてある種の希少価値が出てきますよ。同じぐらいの年齢のやつが今30人いたとして、年食って仕事が減ったら、目端の利く20人はやめていく。
でも、それでも残った10人には、結果的に若いやつとは違う価値が出てくるんです。昭和の空気感を知っているとか、90年代のファッションが分かるとか。そういう自分では気づいていない部分で。
――だといいですが。ところで、小田嶋さんが自分はフリーランスだと自覚したのは、いつ頃ですか?
小田嶋:20代でぶらぶらしていた時に、仲間が作った雑誌でなんとなく書き始めたころは、ライターという自覚すら持っていませんでした。
で、実は30手前ぐらいまで、仲間と3人で株式会社をやっていた時代があるんですよ。ライター3人で編プロみたいな仕事をやってました。80年代はパソコン雑誌やファミコンのゲームの攻略本が次々と発行されて、実はあのころ結構よく稼いでたんですよ。