<第6回>「どんどん刷れ!」商品世界に君臨する大量の紙幣たち――『貨幣論』と『トイ・ストーリー』を混ぜてみた
つぎつぎと紙幣が刷られていきます。あっという間に、たくさんの紙幣が商品世界を歩きました。それは商品と同じか、それ以上の数になっていました。
紙幣「私は紙幣! 私で価値を計るのだ!」
その姿はリンネルをぎょっとさせました。ついこの前まで、金が王として君臨していましたが、今ではその「代わり」がたくさんいるのです。金の総量以上に。
リンネル「なんでこんなに紙幣が増えたんだ!?」
お茶「たくさん刷れるからだね」
リンネル「でも多すぎなんじゃないかなぁ」
ふと周りを見ていると、商品たちが紙幣のことをうっとりと見つめています。その目はかつて金を見ていたときと同じ目をしていました。紙幣は自分たちのことを見つめる商品たちに語りかけ始めました。
紙幣「きみの価値は紙幣何枚分かな!?」
話しかけられた上着は少し考えて、こう答えました。
上着「うーん……6枚分かな」
リンネル(え? 確か前は3枚って言っていたような……)
紙幣「じゃあ、きみは?」
今度はコーヒーに聞きます。
コーヒー「そうだなぁ、10枚かな」
リンネル(そんな……彼は5枚だったはず!)
上着「じゃあ、こっちは20枚だ」
コーヒー「なに? だったら、30枚だ!」
上着「それなら50枚だ!」
リンネル(どんどん上がっていく!?)
紙幣「ふふふ、大丈夫。わたしはいくらでも刷れるから」
リンネル「(でも、いくらでも上がるんだったら、価値をあらわす意味がなくなるんじゃ?)」
リンネルがその状況に戸惑っていると、お茶が腕を引っ張ります。
お茶「リンネル、行こう!」
リンネル「どうしたの?」
お茶「船の場所に戻るんだ」
リンネル「ちょっと待って。状況が飲み込めない」
お茶「言っただろ! 嵐がくるんだよ!」