「なんもしない人を貸し出す」サービスが話題。“中の人”に聞く脱力哲学
コンプレックスから生まれたビジネス
――活動のきっかけというか、そうしたアイディアが生まれる背景にはどんなことがあったのでしょうか。
森本:僕自身のコンプレックスが大きいですね。大学院を出てから就職したんですけど、会社勤めがつとまらなくて3年で辞めちゃいました。で、そのあとしばらくプラプラしていて、コピーライターを目指してみたり、ブロガーをやっていた時期もありました。
でもそれぞれの業界の仕組みを知っていくうちに、自分には無理だと思い始めてしまい、すぐに諦めてしまいました。
人形作家の西村勇魚さん(@isana01metal)から「お顔を作らせてください」と依頼があり、カラオケボックスでなんもしてないところの顔を彫られています。 pic.twitter.com/L3K7G97Kuz
— レンタルなんもしない人 (@morimotoshoji) 2018年9月26日
――そこから“なんもしない”に行きついたと。
森本:世の中を生きていくのって常に「何かしなくては」という義務感に駆られている状態だと思うんですよ。でも僕の場合は、何かやろうとしても、すぐ諦めたり、辞めてしまうのをずっと繰り返してきました。
それで「ひょっとしたら自分は“なんもしない”のが向いてるかも知れない」と考えるようになって、「レンタルなんもしない人」というアイディアが生まれました。“なんもしない”でいたら、人はどうなるだろう、それでも人は生きていけるのかなって実験みたいなところもありますね。
小学生時代は「場面緘黙症」だった
――会社勤めが合わなかったということですけど、もともと集団行動が苦手だったとか?
森本:苦手ですね。特に自分に何か役割を求められる場面とかです。例えば、みんなでBBQをすることになったとします。下ごしらえの際に、食材を調達する人、調理する人、お皿を配る人だとか、なんとなく役割分担ができる流れがあると思います。
僕はそういうのが一切できなくて、何をしていいかわからないからポツンと立ってるだけ。肉だけ食べて帰るみたいな(笑)。「お前、なんもしねぇな」って怒られることもありましたよ。でも改善しようとしても治りませんでした。
――対人関係で誤解や齟齬が生じやすかったり、苦労する場面が多そうですね。
森本:昔から喋ること自体苦手でしたしね。小学生時代は場面緘黙症といって、学校で一言も喋れない子供でした。でも対人関係のすべてが苦手というわけではありません。学校や会社みたいな固定されたコミュニティで上手く立ち振る舞うのは苦手な反面、初対面の人と接することに関してはそれほど苦手意識もありません。
僕の場合、友達と会うときでも緊張します。ところが、知らない人に会う方が緊張しないんですよね。お互いのバックボーンを知らない間柄の方がフラットに接することができるし、むしろ楽しいとさえ感じられます。それは「レンタルなんもしない人」に通じるものがありますね。
親からは「失望した」と言われました
――「レンタルなんもしない人」の活動に関して、ご家族の理解は得られていますか?
森本:親からは「失望した」と。ただ、妻は理解してくれています。“なんもしない人”というアイディアが生まれたときに、その内容は言わずに、「僕は思いついたことがある、明日からそれをやる」って伝えたら「おお、頑張れよ」という。
普通だったら結婚して子どもまでいると“なんもしない”ことで、世間体が気になったり後ろめたい気持ちになると思うんですよ。ところが奥さんは「子どもがいるからこそ、親は好きなことをするべき」という考えみたいで、おかげで楽しくやらせてもらっています。