安倍氏暗殺、なぜ駅に背を向けて演説したのか?「首相経験者」が過去にも危険な場面に
参院選の終盤となる7月8日、奈良県奈良市の近畿日本鉄道・大和西大寺駅前で実施された街頭演説中に事件は起きました。立候補者の応援に駆けつけていた安倍晋三元首相が、演説中に銃撃されたのです。救急搬送された病院で、安倍元首相は死去しました。
このような凶行は、決して許されるものではありません。しかし、こうした危険に晒されているのは安倍元首相だけに限りません。筆者は首相官邸取材歴15年のフリーランスカメラマンですが、今回は歴代首相や国会議員の警備体制について解説します。
街に繰り出す首相経験者たち
参議院議員選挙の期間中は、現職である岸田文雄首相のみならず、前首相の菅義偉議員や元首相の安倍議員といった首相経験者が頻繁に街へと出て有権者に支持の拡大を図ってきました。
ほかにも首相経験者で現職の国会議員は、麻生太郎議員・菅直人議員・野田佳彦議員がいます。また、議員は引退していますが小泉純一郎元首相や細川護煕元首相、森喜朗元首相などは多方面で政治的な活動をしています。
こうした首相経験者を眺めてみると、議員引退後もさまざまな場面で“政治力”が求められていることがわかります。現役の国会議員、元首相ならなおさらです。今回の安倍元首相銃撃事件は、犯人像や犯行の背景・動機が少しずつ明らかにされていますが、それとは別に要人警備の不備も指摘が相次いでいます。
なぜ駅に背を向けて演説していたのか
筆者は警察関係者ではありませんので、内部事情を知る立場にはありません。しかし、15年にわたって政治家を取材してきたので警察の要人警護と対峙する場面も頻繁にありました。セキュリティに関することなので、すべてをつまびらかにすることは控えますが、それらの経験則を踏まえて、要人警護について説明したいと思います。
安倍元首相が演説をしていたのは近鉄・大和西大寺駅の北口でした。映像で安倍元首相が銃撃される場面をご覧になった読者も多いかと思いますが、大和西大寺駅の北口は小規模なロータリーになっています。安倍元首相は駅に背を向けて演説していました。
本来は駅に向かって演説したほうがたくさんの人に見てもらえます。それなのに駅に背を向けて演説していたのは、ロータリーの向こう側に百貨店などの商業施設があり、多くの人がそこから演説に耳を傾けていたからでしょう。
しかし、駅は不特定多数の人が通行します。狙撃犯が紛れ込むに好都合です。背後に不特定多数の人が行き交うのですから、SPは首相の背後を厳重に警戒するべきでした。テレビやネットに出回っている映像を見ても、まったくのノーガード。容疑者は安倍元首相の背後から約3メートルの至近距離から発砲していますが、それまでSPは無警戒のように見えます。