物価上昇はいつまで続く?ウクライナ侵攻だけじゃない“深刻な要因”
なぜ過度なインフレは経済を苦しめるか?
実は、適度なインフレは世の中にとって必要なものとされています。なぜならば将来にわたって値段が上がっていくと思うからこそ、私たちの購買意欲は刺激されるからです。仮に将来にわたってモノやサービスの価格が下がっていくのであれば、「来年買えばよい」となってしまいますよね。
まさにこれが日本の長年の不況の原因になっているわけですが、こういった状況を経済学ではデフレーション(以降はデフレ)と呼びます。デフレの世の中では時間が経てば経つほどにモノやサービスの値段が下がっていきますので、なかなか需要が喚起されません。したがってある程度はインフレがある、つまりモノやサービスの値段が上がっていったほうが、経済は順調に回りやすいのです。
一方で現在のアメリカのように、年率8%前後で物価が上昇している場合は大きな問題となります。多くの場合に私たちの賃金は年に8%も上昇しないからです。特に低所得者層では生活に困窮することになります。そのため政府は常に物価の安定を重要政策に掲げています。
一般的に先進国では年率+2%前後の消費者物価の目標が定められています。2%程度の物価上昇であれば、たとえば賃金の上昇も追いつく可能性がありますし、適度にモノの値段が上がっていく世の中なので、私たちもモノやサービスを来年ではなく今年に購入しようとインセンティブ(動機)が働き、経済活動が円滑に回る可能性が高まります。
紙幣=国家の価値が失われている?
また、現在のアメリカのように8%前後のインフレは一般に「高インフレ」と呼ばれ、それよりもさらにもう一段と激しいインフレのことを「ハイパーインフレ」と呼びます。ハイパーインフレはいくつか基準があるのですが、国際会計基準の定めでは「3年間で累積100%以上の物価上昇」とあり、南米やアフリカなどで多く見られ、たとえばジンバブエやアルゼンチンなどがこのハイパーインフレ状態にあります。
そもそもなぜこんなに物価が上昇しているのかというと、逆説的には紙幣の価値が失われているからです。ピンとこないかもしれませんが、紙幣の価値とモノの価値は逆相関関係にあります。つまり紙幣の価値が上昇すれば物価は低下しますし、紙幣の価値が下落すれば相対的に物価は上昇します。
ですからハイパーインフレとは、急速に紙幣の価値が失われている状況であり、つまり紙幣の発行元である国家への信認が急速に薄れているということでもあります。この状況になると、自国の通貨を持っていてもどんどんと価値がなくなっていきますので、闇両替などが盛んになります。
新興国に旅行に行ったことのある人は、街のいたるところに両替所がある光景に遭遇したことがあるかと思います。これはそれだけ一般市民の間で外貨への両替ニーズがあるということです。自分の国の通貨ではなく、たとえば米ドルで保有しておきたい、といったニーズがまさに顕在化した状況ということです。
<TEXT/金融アナリスト 戸田裕大>