ダースレイダー「東大中退、余命5年」それでもラップを続ける理由
リハビリ、東大受験、MCバトル すべて「ゲーム感覚」
――脳梗塞で倒れた時は悲観的になったりしましたか?
ダース:めちゃめちゃなりましたよ。三半規管にダメージを負ってしまったので、目が覚めてから最初の3週間はずっと船酔いのような感じで、吐き続けていました。辛かったですね。
その気持ち悪さが収まり、リハビリが始まるんですが、人間がする基本動作が全部リセットされていて、「歩いてください」と言われても、歩き方がわからないんです。階段の登り方も忘れていました。「人間ってこんなに複雑な動きを脳のメカニズムで無意識にやってるんだ」って、感心しました。
僕、ゲームが好きなんですけど、リハビリもゲーム感覚で乗り越えていったんです。「この状態からレベルアップするにはどうすれば良いだろう」と常に考えて、少しずつできることを増やしていきました。
――大学受験もゲーム感覚で乗り切ったと聞きました。
ダース:特に苦手な数学ですね。代数とか定理は魔法を覚える感じでした。レベルアップしてペギラゴン(ドラゴンクエストの攻撃呪文)を使えるようになったから、モンスターを倒しに行くぞ、みたいな。
真面目な同級生ほどプレッシャーとストレスで頭がおかしくなっていくんです。そういうのを見てて、「そんなに大変なことではないはずだ」と。何とか楽してズルしようぜ、抜け道探す方が面白いぜって当時から思ってました。
――MCバトルのときも相手のラッパーを冷静に分析したりします?
ダース:分析しますね。例えば「フリースタイルダンジョン」(テレビ朝日)にチャレンジャーで出たときなんかも、モンスター(実力派ラッパー)の戦い方はみんな知ってるから、こいつにはこういう風に攻めよう、と考えますね。
――そういった感覚は、社会人になってからも活かされてますか?
ダース:仕事でもミスすることはいくらでもあるわけで、引きずらないようにするのは、ゲーム的な考え方に翻訳した方がいいんじゃないかなって思ってます。会議で上司にプレゼンすることになったら、その上司の属性、特徴を考えて、じゃあこの攻撃タイプでいこう、と。読みが間違ってる時もあるけど、それはそれでまたやり直せばいいことなので。
ビートに乗ってしまえば上下関係がフラットになる
――MCバトルの醍醐味はなんでしょう?
ダース:僕が今40歳なんですけど、15歳の子とバトルで当たることもあるわけです。ビートに乗ってしまえば上下関係がフラットになるので、見てる側にしてみれば、カタルシスはあるでしょうね。
――そのカタルシスが今の人気の理由だったりするんですか?
ダース:固定化した社会の中で、みんなが思い込んでいるようなことを「そんなことありません」って教えてあげられるのがヒップホップの魅力だと思います。いじめられっ子キャラがMCバトルだといじめっ子キャラと互角に戦えたりね。
日本は思ったことを言わない社会だから、即興で相手に言いたいことを言うフリースタイルの登場は衝撃だったと思いますよ。こういう言い方しても案外成立するんだ、みたいな。
今世界中のポップチャートで、ヒップホップの影響を受けた曲がランキングに入っています。ヒップホップが出てきた当時は、そもそも音楽でもねえ、みたいに言われてたし、今みたいな状況になるって思ってた人は誰もいないんじゃないですか。
あらゆる価値観がいつ何時でも新しいモノに入れ替わる可能性があるってことをヒップホップ自体が証明してると思います。