日本はやや出遅れた「量子コンピュータ」研究。具体的に何ができるのかトヨタを例に解説
近年、ニュースでも取り上げられるようになった「量子コンピュータ」ですが、ついにトヨタなど国内の大手各社も本格的な利用を始めました。
量子コンピュータはこれまでに莫大な時間がかかっていたシミュレーションを短時間で処理することができ、研究開発のプロセスを大きく変えるとみられています。
一方で導入の遅れる企業は開発分野で一気に差をつけられ市場での地位を低下させてしまうかもしれません。本記事では、量子コンピュータの簡単な仕組みから具体的にどのようなことが可能になるのか、トヨタの例を参考に考えてみたいと思います。
量子コンピュータによって計算量が圧倒的に
量子コンピュータの原理を正確に理解するには大学の量子力学の知識が必要となるため、ここでは簡単になぜ計算量が増えるのかを考えたいと思います。コンピュータは一般的に「1」と「0」で表されると言いますが、この数字は「ビット」と呼ばれ情報の最小単位を表します。極端に言えばどんな画像・動画、プログラムも「ビット」の集まりに過ぎません。
例えば3ビットを搭載したコンピュータを想定しましょう。このコンピュータは「0,0,0」、「0,0,1」、「0,1,0」、「0,1,1」、「1,0,0」、「1,1,0」、「1,0,1」、「1,1,1」の8通りしか計算(表現)できず、仮に1つの計算に1分かかるとしたら全ての通り数を計算するのに8分かかってしまいます。
一方で量子コンピュータでは「1」と「0」を同時に表すことができる「量子ビット」が使われます。3つの量子ビットを搭載したコンピュータであれば1回で前述の8通りを全て計算することができるため、仮に1回の計算に1分かかるとしても全てを計算するのに必要な時間は通常のコンピュータに比べて8分の1にまで短縮できます。
つまり同じn個のビット数を有するコンピュータで比較した場合、通常のコンピュータが1回の計算で1個の答えしか求められないのに対し、量子コンピュータは「2のn乗」個の答えを求められます。
物流の合理化に活用されている
量子コンピュータは消費者よりも企業がプロセス改良や開発の現場で使うものです。仮に「量子PC」ができたとしても私たちには使いこなせないでしょう。
具体的な用途が理解しにくい量子コンピュータは、トヨタの活用例を見ることで、その強みを理解することができます。例えば物流の合理化に使われています。部品を複数のトラックで輸送する際、当然ですが1台のトラックに詰め込む量が多いほど必要な台数は少なく済み物流コストを下げることができます。
全て同じサイズの箱であれば積み上げるだけで良いですが、サイズや重量の異なる部品が数十種類もある場合、トラックの台数が少なくて済む「最適な答え」を見つけ出すのに何万、何十万通り以上の計算をしなければなりません。トヨタではこうした計算に量子コンピュータを採用しており、量子コンピュータ事業を手掛けるグルーヴノーツ社など複数ベンチャー企業と共同でプロジェクトを進めています。