「選手の個性を生かす」オシム監督

　巻さんは2003年に「環境やクラブとしての考え方に惹かれた」という理由で、ジェフ市原（当時・現ジェフ千葉）に入団。その年、新指揮官に就任したオシム氏と出会い、大きな影響を受けた。

「サッカーの監督は、『システムに選手を当てはめる監督』『選手の個性を最大限に生かす方法を選ぶ監督』の2つのタイプに分けられます。オシムさんは後者。選手の個性に合わせたサッカーは、サッカーの本質を掴んでいますし、僕自身もやりがいを感じましたね。

　僕は入団してから2シーズンは試合の途中で起用されることが多く、レギュラーではありませんでした。が、試合に出られなくても、充実した日々を過ごせましたし、オシムさんに丁寧に根気強く指導してもらった経験は僕の財産ですね。選手としても、社会人としても成長させてもらったと思っています」

　2005～2006年にヤマザキナビスコカップを連覇した後、サッカー日本代表の監督に就任したオシム氏。どこか哲学的な言い回しが特徴の「オシム語録」が話題になった。

自分のミスで敗戦した日にオシム監督は…

常に全力を尽くす姿勢が持ち味だった

「オシムさんはすごく負けず嫌いなところがある反面、短期的な結果を求めない傾向があり、長期的なプロセスを評価してくれる監督でした。プロ入り2年目（2004年）のとき、チームが勝っている試合に途中出場したことがありました。

　この日の僕は『得点を獲りたい想い』が強く、ひたすら相手ゴールに向かって攻めていったんですが、敵陣で相手の選手にボール奪われ、カウンターで失点。結局、逆転負けを喫してしまいました」

　試合後には、これまでに見せたことがないような剣幕で、オシム監督から怒られたという巻さん。遠征先のホテルに戻ったものの、モヤモヤした想いを引きずりながら過ごしていると、オシム監督から呼び出され、次のように言われたという。

「『勝ち点を失ったのはお前のせい。それは事実だ。だけどこの経験によって、将来的に勝ち点以上のものをチームに還元してくれたら、今回のミスは小さなものになるよ』と話してくださいまして……。本当に凄い方だなと思いましたね」