結局、マスクはどの程度コロナ予防に効く?東大の研究で明らかに
5月の緊急事態宣言後、新型コロナウイルスの感染者数は一旦は減少傾向にありましたが、ここにきて再増加し「第三波」への懸念が叫ばれています。
そんななか、東京大学医科学研究所感染・免疫部門ウイルス感染分野の河岡義裕教授らの研究グループが、マネキンを使った実験でマスクが新型コロナウイルス感染予防に効果があるということを科学的に証明しました。
これについてウイルス学的知見から、日本医科大学特任教授の北村義浩先生に、マスクの有用性とインフルエンザの季節に向けた注意点を教えてもらいました。
マスク着用によって感染者数に変化
――東大研究グループの実験の前、マスクの有用性についてどのような議論がなされていたのでしょうか。
北村義浩(以下、北村):東大の研究結果が出される前、日本は流行の第一波でも欧米に比べて感染者が少なかったので、その未知の「ファクターX」と想定しました。その後、日本人が外国に比べ、よくマスクをつけていることから、ファクターXがマスクではないかというエビデンスが集まり、6月にはついにWHOが「マスクは発症前の人から感染するリスクを減らせる」などの利点があると見解を修正しました。
――これまで「症状がある人のみマスク着用を推奨」という立場をとってきたWHOが、方針転換。無症状の人でも他人に感染させないためにマスク着用を推奨したということですね。
北村:マスク着用によって感染が収まるという公衆衛生学的な情報が多いなか、7月には米国カンザス州のローラ・ケリー知事が州の市長たちに公共の場でのマスク着用を義務付ける行政命令を下しました。知事に従った市と従わなかった市は半々に分かれましたが、マスク着用を徹底した市では流行が比較的収まり、マスクをしなかった市は収まらなかったという結果が出ました。
また、マサチューセッツ州では院内感染を防止する目的で、これまで看護師や検査技師などの医療従事者がマスクをしてきましたが、さらに入院患者や外来患者、見舞い客にマスク着用を徹底したところ、院内感染が減ったという報告があります。さらにスーパーコンピューター「富岳」も、マスク着用によって、ウイルスを出さない、受け取らないという感染の防御効果があるというシミュレーションを出しました。
マスクを着用するだけで感染予防に
――では東大研究グループでは、どのような実験がなされたのでしょうか。
北村:ウイルスを漏らさない空間で、感染者に見立てたマネキンと、50センチ離れて向き合う非感染者に見立てたマネキン、それとウイルス使って行われました。
感染者としてのマネキンは、ウイルスを含むエアロゾル(飛沫)をコンコンと軽いせきのように20分間吹き出させ、もう片方にある非感染者を再現したマネキンは人工呼吸器をつけて呼吸を再現するという実験です。
マスクはN95(※)マスクと不織布マスク、綿の布マスクの3種類。飛沫を出す感染者側がN95マスクを密着装着した場合は、非感染者のウイルスを吸い込む量が100%カットされ、不織布や布マスクでは70%がカットされるという結果でした。
一方で感染者がマスクを着けずに、非感染者が布マスクを着けたときのウイルスの吸い込み量は、着けなかった場合に比べて60~80%、N95マスクでは10~20%まで抑えられました。もしこれを生活環境において静かに話すと仮定したら、これは推定ですが、感染の可能性は10%未満になっているといっていいでしょう。
※N95マスク……NIOSH(米国労働安全衛生研究所)規格に合格したマスク。ウイルスを含んだ飛沫の侵入を防ぐことができる高性能なマスクである。主に医療現場で使用されている。