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ナチス優生思想に殺された叔母を持つ「世界的な画家」の驚きの半生

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ドイツで現代アートが必要不可欠な理由

ある画家

――だから、本作の英語のタイトルが「Never Look Away(目をそらせないで)」というのですね。「必要不可欠」と監督は今おっしゃいましたが、モニカ・グリュッタース文化相はコロナ禍における芸術支援について「アーティストは必要不可欠で生命維持に必要だ」と発言しました。

ドナースマルク監督: ナチズムに結び付けられるので、ドイツは権威に頼るコンフォーミズム(権威従属主義・順応主義)から必然的に脱しなくてはいけなかった。ひとりひとりが自分と向き合い、自分の頭で考え、生み出すことが強いられた。だからアートが必要だったんです。

 そもそも、アートには人を癒やす役割があると思う。私が現代アートの美術館へ行くのが好きな理由は、心に響くアートには、作り手の個人的な経験や苦しみの傷痕が見えるからなんです。それをアーティストが意識的にしているかどうかは分からないですが、苦しみが昇華されたアートを目にしたとき、私は癒やされ、励まされる。ドイツにはたくさんの苦しみがあり、それが昇華されたのが現代アートという形だったのではないでしょうか。

アメリカ政府とアート界の現状

――なるほど、ドイツが再生するには新しいアートが必要であり、また、アートにドイツ人は癒やされもしたと。モニカ・グリュッタース文化相の発言の背景がよく分かりました。

ドナースマルク監督: ドイツが1871年に統一された国家になる以前から、ドイツの様々な宮廷が何世紀もの間アーティストを支援してきました。この伝統が現代にも受け継がれていることも要因だと思います。

――ところで、監督はLA在住ですが、アメリカの映画界は商業主義で公的助成金なども、ほとんどありませんね。アート界も同じですか?

ドナースマルク監督: アメリカ政府がアーティストを公的資金で援助するプログラムは「The National Endowment for the Arts」のたったのひとつしかないんですよ!(笑)。

 しかもその助成金もドイツのひとつの州が支出するアート助成金よりも少ないくらいで、ハリウッドで1本の映画を作る額に等しい(笑)。このプログラムの統括者には、アメリカのアートを牽引する人物がなるべきだと考えられているんですが、トランプ大統領がこの人物に誰を指名しようとしたか知っていますか?

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