入社1か月でコロナ解雇された22歳女性。月収5万円でも前向きなわけ
度重なる増税や控除の減少によって、多くのサラリーマンの手取りが目減りしている。なかにはコロナ禍で働くことすら不安定という新入社員もいるようだ……。
今回話を聞いた伊藤彩香(仮名・22歳)さんは、2020年に都内の私立大学を卒業後、地方都市の建設会社に入社。順調に人生を送っているように見えたが、そこには思わぬトラブルが待ち受けていた。
就活当時は「売り手市場」
就活当時について、今では考えられないくらい「売り手市場だった」と、伊藤さんは振り返る。
「オリンピックも控えていたので、どの会社もこれから経済成長していくって雰囲気でした。私は1社だけですが、友人の中には複数から内定もらっている人もいました。個人的には会社の経営理念や自分の大切にしたいことに合っている企業を選びました」
企業として利益を追求することも大事だが、人を大事にする会社に入りたいと思っていたという伊藤さん。最終的には名古屋にある工務店に内定をもらう。
「業界を絞らず、人情や思いやりがある会社に入りたくて。入社したのは従業員20人くらいの地方の建設会社でした。大学の選考とは違いましたが、素材のひとつから間取りまでこだわって、お母さん目線の子育て設計や、子供の成長に合わせた間取りの家を建てていたのが印象的でした」
コロナ拡大で社長から「退職勧奨」
9月末に内定先を決め、同期は伊藤さんを含めて2人。入社までは東京でアルバイトしたり、旅行したり、ゼミの活動をしたりしていたそうだ。そんな最中、新型コロナウイルスが国内でも感染しはじめる。
「4月に入社して1か月半は普通に営業していました。もちろんマスクは着用して。ただ、5月頭に突然、社長に呼ばれて『経営が苦しくなった。これ以上は人を雇えない。今なら次の仕事も探しやすいから辞めてほしい』と言われました。そのまま5月15日には解雇。経営が苦しくなってきているというのは薄々感じていましたが、これから頑張らないと、早く戦力になりたいと思っていた矢先だったので、ショックでした」
日本の労働法上、正社員の解雇には「30日前までには社員に通達する」などの規則が存在。本来であれば、簡単には解雇できないはずだが……。
なぜ簡単に会社を辞めちゃったのか?
今回、伊藤さんが伝えられたのは「退職勧奨」で、強制的な解雇ではない。つまり労働者側が自由意思によって、会社側の勧めに応じたことになる。それでも伊藤さんは入社したばかりの会社をすんなり辞めてしまった。いったいなぜ、なのだろうか?
「ちょっと薄情かもしれませんが、社長から言われたときに、じゃあいいやと思ってしまったんです。もちろん、就活期間中に探し出した会社の中では一番よかったけど、これから何かに出合う可能性もあるし、ここで駄々をこねてまで残る必要はないかなと(笑)。結局、営業部は5人全員、退職勧奨になり、営業部長も責任を取って自主退職。ちなみに同期は現場仕事だったので勧奨の対象外でした」
唯一の未練は「6か月働いていないので退職金も、失業保険もでないこと。ただ、特別に給与1か月分を退職時にもらえました」と、さっぱりした表情で語る伊藤さん。そんな彼女は再就職はせず、次のステップに動き出している。
自分の夢をかなえるため全国各地を訪問
「もともと緑に囲まれた場所でカフェやりたいと思っていたんです。だから退職後、山形、長野、和歌山と、地方に住んでいる友人や知り合いのもとを巡っています。今は北海道のコミュニケーションで共同生活をしながら、別のところで酪農ボランティアをしています」
伊藤さんが現在所属しているコミュニティには、食品メーカー勤務、研究者、JICAボランティア職員など、多種多様な経歴の持ち主が集まっているという。
「みなさんが、どういう目標を持ってこの場にたどり着いたかも面白いです。今は酪農の体験をしながら、地球環境に優しい生活をしています」。とはいえ、そんな暮らしで収入は大丈夫なのだろうか。
「やめた建設会社は、新卒にしては給料がちょっと高めで、手取りで22万~23万円ありました。その貯金と、あとはSNS運用の仕事をちょっとやっています。前職の関係でつながりがあった知人に依頼されて、とある企業インスタグラムのフォロワーを増やす仕事で月3万~5万円が入ってきます」