自分の未来をコントロールするには?文豪・森鷗外に学ぶ「カオス理論」
カオスを生み出すのは「フィードバック」
『雁』からも分かるように、カオスを生み出すのは「フィードバック」である。
変化を増幅させる方向のフィードバックをポジティブ・フィードバック、変化を抑制する方向のフィードバックをネガティブ・フィードバックという。この点は、カオス理論に重要な貢献をしたアメリカの数学者ノーバート・ウィーナーも指摘する通りである。
このとき、どんな現象にもポジティブ・フィードバックを生み出す要因と、ネガティブ・フィードバックを生み出す要因の両方が存在している。
仕事ができるようになる→良い仕事が集まる→ますます仕事ができるようになる、というフィードバックもあれば、仕事ができるようになる→雑務を回される→もともとの仕事の出来具合まで下がる→雑務が回されなくなる→仕事ができるようになる→やっぱり雑務が回ってくる、というフィードバックもありうる。
『四畳半神話大系』にも近い『雁』
大学に入学してどんなサークル・部活を選んでも結果に差がでない並行世界を描いた森見登美彦の小説『四畳半神話大系』の世界観に近い。
大事なのは、このフィードバックの存在を意識し、自分の目標に合わせてポジティブ/ネガティブどちらのフィードバックを回すのか選択し、強い意志を持って初期の時点でコントロールすることである。
『雁』に話を戻すと、岡田もお玉に気があった。意志の力で「僕」の誘いを断ることなど簡単だったはずなのだ。だがそれをしなかった。立派な医師になるという目標の下では正解だっただろうし、愛に生きるという目標の下では失敗だっただろう。
現代は、カオス現象が研究されてから100年ほど、カオスという共通言語ができて50年ほどである。森鴎外『雁』はそれらに先駆けて我々に示唆を与えてくれる文学作品と考えることもできる。
<TEXT/岩尾俊兵>