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槇原敬之逮捕で注目。精神科医が警告する「薬物報道の在り方」

暮らし

「覚せい剤やめますか、それとも人間やめますか」の影響

――なぜ、人々がそこまで過敏になっているのでしょうか?

松本:なぜかといえば、啓発の中で薬物を使う人は怖い、極悪人だ、と教えられてきたからです。通り魔事件や、世間を震撼させる凶悪な殺人事件でも背景には別の病気があったりするのに、ことさらに薬物と絡めて報道される。だから、怖くなってしまう。

 お年寄りの方だと、約30年前に民放連(日本民間放送連盟)が出していた啓発広告「覚せい剤やめますか、それとも人間やめますか」の影響もあるでしょう。近所に「人間をやめた」人が住んでいたら、そりゃあ当然怖い。

 でも、違法薬物の使用は人を殺したわけでもなければ、誰かの財産を奪ったわけでもありません。“被害者なき犯罪”といってもいいものです。「誰かに迷惑をかけているじゃないか!」という意見もあるでしょう。ですが、それを言うなら少なくとも薬理作用だけでいったら、違法薬物よりも、暴力行動につながりやすいアルコールのほうがはるかに深刻です。

 日本では国民の健康や福祉向上のために行われているはずの規制がそれを上回っている現状があります。

薬物使用を非犯罪化が世界の流れ

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――海外での薬物使用や依存症対策はどのように行われているのでしょう?

松本:世界では薬物を非犯罪化し、健康問題として対処していこうという流れになってきています。もちろん、それまでは各国もまた日本と同様、厳罰をもって薬物問題と向き合ってきました。初めて実効性のあるかたちで国際社会が協働し、法と刑罰をもって薬物を規制することがはじまったのはほんの60年前、1961年のことです。

 第二次世界大戦後、国連がちゃんと機能するようになり、そこで初めて「麻薬に関する単一条約」(主に麻薬の乱用を防止するため、医療や研究などの特定の目的について許可された場合を除き、これらの生産および供給を禁止するための国際条約)ができたのです。

 日本も含めて多くの国が批准し、条約に基づき、薬物規制の法律を作り、規制していくようになりました。

 ですが、法と刑罰による規制で薬物をコントロールしようとした結果、何が生まれたかといえば、この60年近くのあいだ、世界中のアヘンやコカインの生産量は激増しています。そして、アヘンを規制するとモルヒネを使う、モルヒネを規制するとヘロインを使う、といったように、規制を強化すればするほど、より危ない薬物が出てきてしまった。

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