日本とは違う「海外ブラック企業」裁判。2年で35人自殺した仏企業でも
海外でブラック企業が報道されない理由
――争点は、国によって違いがあるのでしょうか?
北川:制度・法律や手続・処理の違いはあれど、やはり生活に直結するからか、賃金と雇用に関する争点が多いのは日本と変わりません。一方、世界的な流れとして、前述のモラルハラスメントを含め「ハラスメント(いじめ・嫌がらせ)」に関する争点が増えています。
これは各国において、グローバル化に伴い、産業構造や職場環境が大きく変化していく中で、労働者全般に不安やストレスが多くなっていることを受け、そのはけ口として弱者・少数者を攻撃する形態であらわれていることが、一因と言われています。
――ブラック企業は、日本でも、社会問題になっていますが、海外でも(このフランステレコムの事例に限らず)ブラック企業がニュースなどで、社会問題のように取り上げられることはあるのでしょうか?
北川:ブラック企業とは、一般に「労働条件や就業環境が劣悪で、従業員に過重な負担を強いる企業や法人」のことを指しますが、海外では、日々の生活がままならない貧しさの残る発展途上国はともかく、いわゆる先進国で社会問題として取り上げられることはあまりないようです。
私見ではありますが、先進国では労働や福祉に関する法が整備され、かつ多くの企業が存在するなかで、労働者があえてブラック企業で働き続けるという選択肢はとらないと思われます。ゆえに、労働者がいない以上、ブラック企業が存在すること自体が難しいということになります。
ただし、中国では「996」が社会問題に
――では、先進国であるにもかかわらず、なぜ日本でブラック企業が社会問題になっているのでしょうか?
北川:推察すると、日本特有の滅私奉公や我慢・忍耐を美徳とする文化が影響し、ブラック企業であっても,働き続ける一定数の労働者が存在するからだと考えられます。
ただ、ごく最近ではありますが、中国では「996」というのが社会問題になっているようです。これは、午前9時から午後9時まで週6日間働くことを意味する言葉で、複数の大手IT企業で常態化されており、それに対し、ある経営者が「996」を支持する発言をしたことで物議を醸しているようです。
■ ■ ■ ■ ■
この「996勤」を支持したのは、中国ネット通販大手・アリババの創業者の馬雲(ジャック・マー)会長である。現在中国ではアリババをはじめ、テンセント、シャオミ、バイドゥなど多くのIT企業で「996」が行われている。
しかし、この発言が物議を醸したため、マー会長はのちにSNSを通じて「996は非人道的で、不健康で長続きしないだろう」と弁明した。この騒動で中国人の働き方に変化が起こるかはわからない。しかし、経営者の意識を変えるのは労働者一人ひとりの行動なのかもしれない。
<取材・文/シルバー井荻>