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独裁者は普通の人間。ナチス将校を装い大量虐殺をした20歳の少年

暮らし

大量殺人のシーンは証言に基づいた事実

――今、ドイツでは極右政党が台頭していますが、それも本作を作りたかった理由でしょうか?

シュヴェンケ監督:その前からこの映画の構想は練っていたんですが、5年ぐらい前からひょっとしてこの映画は今のドイツの状況を映し出しているのでないかと思うようになりました。現在のドイツは非常に危険な状況にあると感じています。

――ヘロルトがナチス将校の制服を拾ったという話は、真実なのですか?

シュヴェンケ監督:ヘロルトは拾ったと裁判で主張していますが、彼がどのように制服を手に入れたかについては、目撃者がいませんし、彼が死んだ今では誰にも分かりません。ただ、あれほど嘘ばかりついてきたんですから、裁判における彼の証言全部を信じることはできませんね。

 個人的には、彼は偶然に制服を拾ったのではなく、盗んだのではないかと疑っています。けれども証拠がないので、映画の冒頭で制服を拾うシーンは、彼の証言に基づいて作りました。

 しかし、彼が収容所に着き大量殺人を起こしていくシーンは、目撃者の証言に基づいて作った真実です。それから、ヘロルトが裁判にかけられるシーンも、実際の裁判の記録どおりに作ったものなんですよ。

ナチスをスケープゴートにしてはいけない

サブ3

――ヘロルトを演じたマックス・フーバッヒャーは完璧でしたね。彼はドイツでは有名なのですか?

シュヴェンケ監督:彼はドイツ語を完璧に話すスイス人で、まだ有名ではなく、スイスで数本の映画に出て、映画賞もいくつか取った素晴らしい俳優です。彼のイノセントかつエッジィな、少年っぽさに残虐性が潜んでいるような、不思議な雰囲気に惹かれました。

 実在のヘロルトは事件を起こしたとき、まだたったの19歳だったんですよ! でも、ひょっとすると、若かったからこそ「このままどこまで行けるんだろう?」という、ゲーム感覚であそこまで進んだのかもしれない。彼は単なる若者だったんです。

――本作がこれまでのナチス映画と一線を画しているのは、当時のドイツの社会階層や権力組織を詳しく描いている点もあると思います。ドイツ軍のなかにはゲシュタポやナチスのほかにも国防軍があったのですね。

シュヴェンケ監督:ドイツでは歴史修正主義がはびこっていて、ホロコーストはナチスだけのせいにされてきました。私自身もそのように教えられていたのですが、実際は国防軍も関わっていた。

 この作品はホロコーストを題材にはしていませんが、酒屋の主人から司法局の裁判長まで、社会階層のどこにいても第二次世界大戦中に起こったことには全員が関わっていた。ナチスをスケープゴートにしてはいけないと思うんです。

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