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京急脱線事故から1か月。踏切事故を防ぐには…私鉄各社に聞いた

ビジネス

 2019年9月5日11時43分頃、京急線(京浜急行電鉄本線)神奈川新町付近の神奈川新町第1踏切で、快特三崎口行きが神奈川新町を通過した直後、トラックと衝突し、1~3両目が脱線した。

京浜急行電鉄本線

神奈川新町第1踏切付近では、死亡したトラック運転手を悼み、花を供えていた

 この事故で67歳のトラック運転手が死亡、乗務員と乗客37人が重軽傷を負った。あれから1か月、踏切事故を防ぎ、安全性の向上を図るためには、なにが必要なのか。また、京急のほか、大手私鉄6事業者の安全施策などについて、レイルウェイ・ライターの岸田法眼氏がレポートする(以下、岸田氏の寄稿)。

事故の瞬間を目撃した人が少ない

京浜急行電鉄

トラック運転手が通った道は、途中で幅員が狭まる

 今回の事故は明らかにトラック運転手と勤務先に非がある。運転手は勤務に就いてから日が浅く、道を間違え、迷ってしまったようだ。例えば、初心者向けにカーナビを搭載する、3か月間を目安に慣れるまでキャリアの長い社員を同乗させるなど、ソフト面が充実していたら、起こらなかった事故だ。

 神奈川新町駅と神奈川新町第1踏切は、目と鼻の先。加えて新町検車区(車両基地)に隣接しており、列車によっては乗務員の交代が行なわれる。日中の下り普通電車の多くは、この駅で7分停車し、エアポート急行の待ち合わせ、快特の通過待ちを行なう。

 不思議なのは、事故発生の瞬間を目の当たりにした人の数が少ないことだ。別件の取材前に神奈川新町で降りると、ラッシュ時ではないせいか、駅員が立っていない(事故を防げなかった一因ともいえる)。下車すると、神奈川県警の刑事ら約10人が神奈川新町第1踏切の周辺に立ち、事故発生時の目撃者探しをするほどだ。

京浜急行電鉄

神奈川新町1番線6両編成の停止位置から、神奈川新町第1踏切までは、目と鼻の先

『京急時刻表』2018年版のページをめくると、事故発生時、下りホーム1番線に普通電車浦賀行きが停車していた(報道各社は快特三崎口行きとトラックばかりに気を取られていたように思う)。

 仮にダイヤ通りの運転だった場合、発車を待っていた運転士は、なにも気づかなかったのだろうか。トラックの動きを察知していたら、神奈川新町第1踏切の警報音が鳴る前に警笛を強く鳴らし、同僚などに危険を知らせる、もしくは運転指令所に連絡するなど、事故を未然に防ぐ手はいくらでもあったのではないかと思う。

3D式障害物検知装置が活かされず

京浜急行電鉄

3D式障害物検知装置

 今回の事故で残念なのは、神奈川新町第1踏切に3D式障害物検知装置が設置されていながら、事故を防げなかったことだ。京急ではこの踏切も含め、7か所で3D式障害物検知装置が導入されている。

 この装置は、踏切の斜め上方からレーザー光を照射して、踏切上の物体を立体で検知するもの。従来のタイプに比べ、広範囲に検知できる。特に東急電鉄では、2021年度までに世田谷線、こどもの国線を除く、すべての踏切に導入する予定だという(注:田園都市線は踏切が1つもない)。

 そして、東横線、目黒線、大井町線は、自動車の通行が可能なすべての踏切に、光線式、もしくは3D式の障害物検知装置を導入済み。また、一部自動車が通行できない小さい踏切があり、こちらについては障害物検知装置が未導入個所もあるという。踏切障害物検知装置はATC(Automatic Train Control:自動列車制御装置)と連動。障害物を検知した場合、接近する列車を自動的に踏切手前までに15km/hに減速させることを可能にしており、事故防止に努めている。

 しかし、京急などは、自動で非常ブレーキがかかるような仕組みになっていない。国土交通省は踏切事故防止の対策強化に向けて「踏切で障害物を検知したら即自動停止」「警報機はあっても遮断機がない第3種踏切の廃止」「遮断機や警報機がない第4種踏切の廃止」を明文化すべきだ。踏切事故を撲滅するには、施策や対策の共通化を図らない限り、同じことが何度も続いてしまう。

京浜急行電鉄

相鉄バスの自動運転実験車両に搭載されたレーザーセンサー

 また、車両側で障害物を検知すると自動停止するセンサーを開発、実用化すれば、多額の投資が厳しい中小私鉄などでも、踏切に限らず線路上における事故防止の対策強化を図れる。

 京急事故の翌日、JR九州鹿児島本線東福間駅構内で、軽自動車がロータリーから線路上に転落する事故が発生した(参照:毎日新聞「駅構内線路上に車転落 柵突き破りホームに JR東福間駅」)。すなわち、列車と自動車の衝突は踏切内だけとは限らないのだ。

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