イスラエルを支持するアメリカ

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　それは、ユダヤ系アメリカ人がイスラエルに対して抱く恋心に秘密があります。エルサレムの東にそびえるシオンの丘は古代イスラエル王国を象徴する地。この地を含むパレスチナ一帯に、ユダヤ人の故国を再建しようとする“シオニズム”という運動が1890年代に起こりました。そして、第二次世界大戦後の1947年に英国がパレスチナからの撤退を表明し、ユダヤ人入植者たちはイスラエル建国を宣言。

　このイスラエル建国をサポートしたのが、アメリカとソ連。アメリカでは、再選を目指していたトルーマン大統領が在米ユダヤ人コミュニティの資金と票をあてにしていたから。加えて、トルーマンはホロコーストの事実が明らかになるにつれ、ユダヤ人の苦難に同情を感じていたそう（※2）。

　一方、ソ連のスターリンは、イスラエルには東ヨーロッパ出身の社会主義者が多かったことから、新生イスラエルが親ソ連の社会主義国家になると信じていたのだとか（※3）。結局、イスラエルは親米国家となり、中東におけるソ連の影響力を阻んできました。ソ連崩壊後も、アメリカや同盟諸国に対するテロに資金を援助するようになったイランに対抗するために、アメリカはイスラエルの最大の援助国であり続けています。

イスラエルとアメリカの“特別な関係”

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　とはいえ、アメリカがイスラエルを支持するのは、在米ユダヤ人のイスラエル・ロビー活動や政治的／軍事的な理由ばかりではありません。アメリカとイスラエルは建国の歴史が似ています。両国とも宗教的迫害を逃れた「ヨーロッパ系白人移民」が土着の先住民を排除しながら新国家を建設しました。イスラエルの民主主義や言論の自由もアメリカと非常によく似ており、中東のアラブ世界よりもアメリカはイスラエルのほうに共感するのです。

　持ちつ持たれつの関係にある両国ですが、現在、在米ユダヤ人コミュニティにも多様性が生まれ、若い世代のなかにはイスラエルのパレスチナ政策を批判している人も多く、今後のイスラエル・ロビーは変わりつつあると言われています。けれども、ホロコーストを経験した世代や、その子供たちであるノーマンの世代は、イスラエルを「いざという時の避難所」と考え、心の故郷としているそう。（※2）

　作中、小さな嘘を重ねて大事件を引き起こしてしまうノーマンに思わず同情してしまうのは、彼が引き起こす忖度に、イスラエルへの恋心が見えるから。決して私利私欲だけで動いているわけではないのです。

　ユダヤ人社会で大物フィクサーたらんとあくせくするノーマンを通して、“民族意識が往々にして支配層に利用される”ことに警鐘を鳴らす本作。ノーマンとミカがたどる運命は、世代交代によって変わり行く在米ユダヤ人社会とイスラエルの関係を暗示しているのかもしれません。

【参考】
※1…筑摩書房『反ユダヤ主義の歴史　第1巻　キリストから宮廷ユダヤ人まで』レオン・ポリアコフ著　菅野賢治訳
※2…中公新書『ユダヤとアメリカ』立山良司著
※3…PHP研究所『雑学3分間ビジュアル図解シリーズ　日本人が知らない！　ユダヤの秘密』佐藤唯行著

＜TEXT／此花さくや＞