あのギャツビーが宇宙でも使える?進化するスペースグッズを追った
宇宙では「地上での生活感や自然」を感じられない
だが、製品化に向けては相応の苦労も経験したという。
「エタノールを入れることで雑菌が繁殖しにくくなり、防腐効果も高くなるわけですが、エタノールを使わずに、製品の防腐性を担保する処方設計がとても大変でした。不織布と中身液の組み合わせや、そのバランスについて試行錯誤を重ね、防腐機能の向上に努めていきました」
また、現役の宇宙飛行士からの意見も取り入れ、実用性についても追求してきたそうだ。
「宇宙空間では、地球上ではごく当たり前な日常の生活感や自然を感じる機会がなく、機械や人工物の匂いが漂う空虚な環境ゆえ、ストレスを抱えやすい。『ギャツビー スペースシャワーペーパー』では、人間の五感を満たし、人間らしく生きるための製品を作ろうと考え、地上で感じる自然の匂いや日常の香りを楽しめるように工夫を凝らしました」
頭皮用・ボディ用の2種類を開発し、2022年秋には実際にISSで使用された。
宇宙がエンタメになれば、新たなニーズが生まれる可能性も
実際に筆者も宇宙用のギャツビーを体験してみたところ、既製品よりも水分量が多いことに気づく。
アルコール不使用にもかかわらず、清涼感は変わらずに体感できた。
「実は含浸量が既存のものと比べて約2倍になっているんですよ。たっぷりの液量があるため、持続性にも優れていて、地上でシャワーを浴びたような“サッパリ感”を味わうことができるんです」
頭皮用も使ってみると、確かにシャワーを浴びたような感覚を味わうことができた。
もしかすると、宇宙向け以外にもキャンプやアウトドアニーズもあるのではと、志水氏に聞いてみると、「そのような需要もあり、今後は技術の応用も視野に入れている」と述べる。
「現状は、専用のECサイトのみで販売しており、ロケット好きやスペースファンといった一部のお客様にご愛好いただいていますが、宇宙空間以外のシーンでも活用できる製品なので、お客様のニーズを把握しながら、さまざまな可能性を模索していきたいですね」
スペース時代の到来が予見されるなか、これからは宇宙空間で使える製品が続々と登場してくるのかもしれない。
最後に今後の展望について、志水氏へ伺った。
「2030年までに、スペースツーリズムは200億規模の産業になるといわれています。ひと昔前までは『宇宙へ行けるのはセレブだけ』という考えがありましたが、近未来は誰でも宇宙へ行けるようになり、長距離航空便との競合になりうる時代が来るかもしれない。その一方で、『宇宙=エンタメ』の可能性も十分にあると考えています。
例えば、宇宙で結婚式を挙げる、宇宙船に搭載されたカメラで記念写真を撮るなど、新たな需要喚起も期待されています。このような背景があるなかで、我々も日用品メーカーとして、『宇宙空間でも外見も心も良い状態に保ちたい』というニーズに応えられるような製品開発もしていければと思っています」
宇宙へ行くことが日常になれば、そこに新たな産業が生まれる。
地上では味わえない「感動」や「楽しみ」を求め、地球を飛び出す人が増えていく。
そんな未来が来るのを想像するのも悪くないだろう。
<取材・文・撮影/古田島大介>
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