「会社で吐き気と頭痛が…」バリキャリ女子の悩みに産業医の判断は?
「私、大学にいるときから2年間、夜の仕事をしていたんです。細かいことは言えませんが、そこで、自分が“1か月で三桁”稼いでいました。貯金も1年間働かなくても大丈夫なだけ作れたんです。だから、もう夜の仕事はいいやって。昔は週5日で働いていましたが、今はたまに働く程度。昼の仕事がどんなものか勉強中です」
1か月で三桁、というのはもちろん“100万円超”のこと。どうやら彼女によれば、今やっている仕事は将来、起業したとき、「昼の仕事で雇う側の心理を知るための研修期間」らしいのです。
「稼ぐ金額=自分の価値」「今の会社は勉強期間」
「私、将来は自営業で子供も4人作って、彼には専業主夫になってほしいんです。それで、不自由ない暮らしをするには手取り三桁は必要だなって。『稼ぐ金額=自分の価値』だと思っていて、元気になったら夜の仕事を並列でやりたいし、今の会社は“勉強期間”だと思っています」
そのうえで、「ただ、今のままだとまともに仕事できないので、万全を期すまで“特別時間”で働くのを認めてほしいんですよねぇ」と、ポツリ。話が飛躍してしまいましたが、Aさんの話をまとめると、こう。
「体調不良のため就業制限をかけてほしい」「出勤は朝1~2時間遅れ」「そこから定時17時までの勤務」。「1年間勤務」は彼女の勝手なプランらしいので、今回は無視。かなり、わがままな要求ですが、実際、通すことは可能なのでしょうか?
産業医が「起業したい」彼女に下した診断は
後日、私(筆者)は、Aさんとともに本サイトの連載でもおなじみ、産業医の武神健之さんを訪ね、アドバイスを伺って来ました。
「はっきりとした症状も出ていて、体調は崩している部分はありますが、症状はピークの半分程度ですし、きちんと医療も受けています。このまま様子見でいいと思います。就業制限の必要性については主治医の診断書もないですし、診断書があったとしても、産業医として承認はできないでしょう。まずは、昼の仕事に専念すべきですね」
そのうえで、武神医師がもしB社の産業医だった場合、どのようなことを会社に伝えるのでしょうか。
「あくまで本人了承のもとですが、入社して2~3か月で体調を崩したのは生活習慣を含む環境の変化への対応で疲労が溜まったためという印象であること。ハードワーカーになりがちな彼女にはもう少し自分自身をケアし、自己実現のためにこそ、自己管理をする大切さについてお話ししたこと。そして、趣味の時間、何か没頭することができる時間、気分転換の時間で、日頃の緊張感を区切ることができるといいかもしれません、とお伝えしますね」
というのが、1時間半の面談の結果、産業医が下した診断です。とりわけ、Aさんの話を聞いて、武神医師は「本人の会話の矛盾点」が気になったそうです。
「話のはじめでは、仕事や職場にストレスはないとのことでしたが、途中、途中、決してノンストレスな状態ではないことが伝わってきました。今日の面談から得られた内容も、本人がいずれ必要だと自覚する日が来るのではないでしょうか。
たしかに、今はまだ若いので無理すれば、仕事もできるかもしれませんが、このままでは本当の病気になったり、長期の休職になってしまいます。そうなる前に、自分をケアすることを本人に気づいてほしいですね」
本人が無自覚のハードワーカーだからか、今はまだ頭痛と吐き気を感じているだけ。しかし、放っておけば、深刻な症状に繋がりかねません。Aさんも納得したようで、「将来のために無理して、まだ大したことないと思っていた」と、自分の体のサインを侮っていたことを反省しました。
20代は仕事に追われがちですが、自分の心と体のサインを見逃さないよう、みなさんも注意したほうがいいかもしれませんね。
<取材・文/井野祐真>