2022年公開の「アマプラで観れる傑作邦画」4選。コロナ禍の恋愛を描く作品も
2)17歳の在日クルド人が抱えるアイデンティティへの迷い
川和田恵真監督の『マイスモールランド』は、難民認定を受けて日本に住むクルド人のサーリャ(嵐莉菜)とその家族の生活を描く。
これを「社会問題(難民政策の問題点)が描かれた映画」としての一面だけで説明してしまうのは抵抗があるが、難民としてこの国にやってきた人々がどのような苦難や葛藤に立ち向かわなければいけないのか、その現実を知るきっかけになるようなフィクションであることは間違いない。しかもとても丁寧に練られた脚本と役者の演技に下支えされた映画として。
サーリャは高校に通いながら、教師になる夢を叶えるために大学進学を志し、そのために家族に内緒でアルバイトをしている。彼女は子どものころから日本で育っているけれど、通っている高校では友だちに対して自らがドイツ人であると偽り、もともとウェーブがかかった髪を毎日ヘアアイロンでストレートにしてから通学している。
在日クルド人というだけでなく、女性であることや年齢、血縁といった縛りも含めて、自らのアイデンティに対する迷いが日常の描写の中で丁寧に掬い上げられていく映画だ。
眼差しの強さが、鑑賞者に伝染する
本作は中盤に差し掛かる頃に大きな展開を見せる。サーリャたち家族の難民申請が不認定となり、急に在留ビザを取り上げられて「不法滞在」の状態となってしまうのだ。そうなってしまえば、危険のある故郷に帰るか、入管(出入国在留管理庁)に収容されるか、働くことも健康保険に入ることもできない中で仮放免として生活するか、そういった過酷な選択肢しかない。
それでも彼女たちは生きていく。ひとまずはそう書くしかないのだけれど、この映画ではサーリャの「眼差し」にこそ注目してほしい。映画というのは、登場人物の人生の「途中」しか見ることができない表現媒体だと思う。
現実にも存在しうる境遇をもつ登場人物の、切り取られた一瞬のみを私たちは垣間見ることができる。だからこそ、彼女たち/彼らの「目」を見た鑑賞者の「目」に、物語が受け継がれていくことを願う。