不倫相手を家までストーキング…ドロドロの人間関係を描く、漫画家の思い
キラキラした青春ものは眩しすぎる
――大賞を取られた作品(「悪い夢だといいのにな」)も拝見しましたが、やっぱりドロドロした作品ですよね。昔からそういう作品に惹かれてたんですか?
伊奈子:そうですね。ドロドロしたのはすごい好きです。映画とか本とかでも、何かキラキラした青春ものは、自分には眩しすぎて共感できないというか……。眩しすぎて自分の影が濃くなるのを感じて、取り残されてる気がしたんですよ。きっとそういう人はいっぱいいると思うので、自分で描くときもキラキラした青春には共感しにくい人たちに、寄り添えたらいいなと思います。
――キラキラに共感できない気持ちわかります。ではどんな方に読んでもらいたいですか?
伊奈子:普段ちょっと暗く生きてるような人とかに読んでもらいたいですね。やっぱり自分と同じように地方で閉塞感を覚えてる人に読んでもらいたいですね。なんというか、キラキラしてないものがあると、すごい落ち着くんですよね。例えば学校の部活で彼氏もできて頑張っていくぞ、みたいな物語だと自分と違いすぎて……。一般的にはそういう作品のほうが、支持されてたり、みんな読んでたりするので、やっぱ自分ってやっぱ影の存在なんだと再認識させられます。
嫌な話で共感したほうが心の底で通じ合う
――ドロドロした部分も含めて、伊奈子さんは人間なイヤな部分を描かれるのが上手ですよね。
伊奈子:ポジティブなことよりも、ネガティブなことを人と共感したときに、深くわかり合える気がするんですよね。食べ物のこれが好きだよねって話よりも、職場でこういう人は嫌いみたいな話のほうが心の結びつきが強くなるというか。嫌な話で共感したほうが、うわべじゃなくて心の底で通じ合う気がしますよね。
――「泥濘の食卓」の中でも、例えば産婦人科のシーンのアングルとかイヤな描き方をされてますよね。
伊奈子:そうですね。私自身、婦人科検診がいつも嫌だ、嫌だ、と思っていて。受診している自分の目線で、その不快感を再現できるように、効果的な構図を考えて描きました。婦人科の検診ってカーテンで覆われてはいますけど、すごい大股を開くんですよ。向こう側からは、もう全部見られちゃってるし。しかも、自分とその体のことについて大勢で話したりしてるんですよ。なので普段から、すごい嫌だなって思ってることを詰め込んだシーンですね。