「鶏レアチャーシュー」で19人が食中毒…鶏肉の生食はなぜ危険なのか
カンピロバクター食中毒者ゼロを実現できたワケ
しかも改正ガイドラインでは、「筋胃(砂肝)、肝臓」が生食可能な部位から除外された。
<県は、国の事業で16、17年度に鶏のレバーに含まれる細菌を調べた。下痢や腹痛を引き起こすカンピロバクターの検出率が高く、肝臓の生食は安全性を確保できないと判断し、生食用食鳥肉の基準対象から内臓を外した。>(2018年6月14日付南日本新聞)
鹿児島県ではもちろんレバーや砂肝の刺身は珍重されていたが、生食文化を守るため県はこの部位を「切った」のだ。実のところ、2018年のガイドライン改定前の時点でも、鹿児島県のカンピロバクター食中毒患者数は少なかった。スーパーには鶏刺しがずらりと並んでいるのに、だ。
食鳥処理場での加工から飲食店まで「生食」を守るため、加工や流通を工夫し、目標基準を設定した結果、2017年度には鹿児島県のカンピロバクター食中毒者の報告数をゼロにまで下げることに成功。生食文化のお膝元でも食中毒を排除できることを示したそうして18年、さらにリスクを低減化するべく、砂肝とレバーを生食の対象から外したのだ。
食文化は安全の上にこそ成り立つ
生食用の処理をした鶏肉は「生食用」と明記し、加熱用とは違いがひと目でわかるように区別した。食肉処理及び加工を行ったすべての施設の名称と都道府県名の記載を義務づけ、子どもや高齢者は生食を控えるような表示を求めた。最終的に人の手を介する以上、リスクをゼロにはできない。だがリスクをゼロに近づけるように手を打った。
処理・加工場から飲食店までが連携して生食文化を残そうと取り組み、国や厚生労働省の判断を待っている。それが産地である鹿児島県の現状だ。
それでも東京などの他地域で大規模食中毒が発生してしまったら、「鶏肉の生食は危険!」とヒステリックな声が高まり、積み上げた産地の努力はいとも簡単に吹き飛んでしまうだろう。それでいいのだろうか(まったくよくない)。
「安全な生食」が確立されたと判断されるまで、われわれ「外野」にできるのは知識を整理することくらい。生食をねだるのは「生食用」が流通するようになってからで十分だろう。
東京は世界に冠たるおいしいものの消費地であるが、産地からすると「外野」でもある。不心得な外野が誰も望まぬ結果を招くことはO157をはじめ、さまざまな場面で経験してきたはずだ。食文化は安全の上にこそ成り立ち、無知は食文化を殺す。
<TEXT/ライター・フードアクティビスト 松浦達也>